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大阪大・上田豊講師に聞く

 厚生労働省がHPVワクチンの接種を積極的に勧めることをやめて6年になります。現状をどうみるのか、3人の専門家に聞きました。大阪大産科婦人科の上田豊講師は一日も早い積極的勧奨の再開を求め、「このままでは亡くならずに済む女性がたくさん亡くなってしまう」と訴えます。

ワクチンの予防効果、相次ぎ確認

 HPVワクチンを接種することで子宮頸(けい)がんを予防できる可能性が高いことは、国内外のいくつもの研究によって示されています。

 私たちは子宮頸がん検診を受けた20歳の女性に注目して、ワクチンの効果を調べています。HPVの感染によって子宮頸部の細胞に異常が見つかる確率は、ワクチンの接種を受けた世代ではそれ以前の受けていない世代に比べて大きく減っています。

 この4月には、「CIN」という指標に注目した前がん病変への影響について専門誌で報告しました。HPVに感染しても大部分はウイルスが自然に排除されますが、特定のタイプのウイルスに感染し続けると、まず「軽度異形成(CIN1)」という状態が生じ、一定の確率で「中等度異形成(CIN2)」、「高度異形成および上皮内がん(CIN3)」へ進み、その一部が子宮頸がんとなります。

 松山市での20歳時検診の結果を分析したところ、1991~93年度に生まれ、まだワクチンが導入されない時期を過ごした7872人のうち、CIN3とされた女性が7人いました。一方、94~96年度に生まれて79%が接種を受けていた7389人では、CIN3の人はいませんでした。これまでにもCIN2までの前がん病変が減ったという報告はあったのですが、がんの直前段階であるCIN3まで減らせたことを確かめたのは国内では初めてです。別の地域も含めてさらに調査を進め、ワクチンの予防効果を確かめていきたいと思っています。

海外では「撲滅」を議論

 HPVワクチンが普及している海外では、すでに子宮頸がんの「撲滅」が議論されています。たとえば、対策が最も進んでいるオーストラリアでは、ワクチンと検診を組み合わせることで、子宮頸がんにかかる女性の割合を、2020年ごろには「希少がん」に該当する女性10万人あたり6人にまで、28年ごろには「根絶」に該当する10万人あたり4人にまで減らせると、研究者が報告しています。ほかにも先進国を中心に、多くの国で今世紀中には子宮頸がんを撲滅できるのではないかという予測が出ています。

 一方、日本では子宮頸がんにかかる人の割合(罹患率)が、高齢化の影響を考慮しても増え続けていることがわかっています。大阪府のがん登録データを活用した私たちの分析では、子宮頸がんの内でも「腺がん」と呼ばれるタイプのがんが、とくに30代以下の若い世代を中心に増えています。困ったことに、腺がんは検診で見つけることが難しいうえ、放射線治療が効きにくいとされています。なぜ腺がんが増えているのか、詳しいことはわかっていません。

約1100人が余計に死亡、との予測も

 厚生労働省が積極的勧奨を差し控えたために、00年生まれ以降の日本の女性のほとんどがHPVワクチンの接種を受けていません。ワクチンがすべての子宮頸がんを防げるわけではありませんが、積極的勧奨を差し控えたことによって、00年生まれでは3650人がワクチンを打った場合よりも余計に子宮頸がんに罹患し、約900人が余計に死亡すると予測しています。01年生まれでは約4600人が余計に罹患、約1100人が余計に死亡すると見込まれ、その後も続きます。

 やはり、一日も早い積極的勧奨の再開を求めたいと思います。そのうえで、現在は小学6年~高校1年としている対象年齢を広げたり、男性にも接種をしたりといった対策をとる必要があります。また、オーストラリアなどではより幅広いタイプのウイルスにも効果があるとされる「9価ワクチン」が使われています。日本でも約4年前にこのワクチンが承認申請がなされていますが、まだ結論が出ていません。審査を急いでほしいです。

「リハビリで少しでも良い状態」を

 ワクチンを打った後に痛みなどを訴える方はいます。私自身、大学病院でそうした方たちに対応しています。私は痛みの原因がはっきりとつかめた場合以外は、痛みを訴えている方たちに「接種後の副反応の原因は必ずしも明らかになっていない」と伝えて、「原因を追及するよりも体を動かすリハビリなどに取り組んで、少しでも良い状態になることを目指しませんか」と話しています。

 受診する多くの女性がそれまでに「うちに来ないでくれ」などと言われ、病院をたらい回しにされていることは否めません。そのようにして心情的に追いつめられ、また不安に陥っている方が少なからずおられることは、重く受けとめないといけません。

 子宮頸がんは深刻な病気です。治療法が進歩し、体にあまり大きな負担をかけずに手術するといったことも可能になってはいますが、せっかく妊娠したのに子宮頸がんが見つかり、悩んだ末に出産をあきらめ、さらに子宮も全部摘出するといったケースもあります。早期発見のための検診はもちろん重要で、私たちも力を入れて取り組んではいますが、腺がんのように検診では見つかりにくいタイプもあり、やはり限界があります。

 子宮頸がんを防ぐ手段があるのに使えない。現にがんで苦しみ、これから苦しむことになる女性たちに対して、本当に気の毒な気持ちでいっぱいです。(聞き手・編集委員・田村建二)