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 世界で唯一、女性の自動車運転が許されなかったサウジアラビアが昨年6月、解禁に踏み切った。当時はハンドルを握った女性が一斉に街に繰り出し、自動車メーカーが大々的に広告を出すなど注目されたが、1年が過ぎた今、女性ドライバーの姿はまばらだ。どんな事情があるのか。(ドバイ=高野裕介)

 紅海に面した商都ジッダ郊外のまっすぐな道路で、アルジャウハラ・ハムディさん(30)が日本製セダンのアクセルを踏み込んだ。「レースにも挑戦したい」と得意げに笑った。

 ハムディさんは運転が解禁された2カ月後に免許を取得。月2200リヤル(約6万4千円)のリースでハイブリッド車に乗り、配車サービス「ウーバー」の運転手をしている。女性客には女性運転手の方が心地良いという人が少なくない。

 ハムディさんはダイビングの指導員もしている。自宅周辺は不便で仕事に行くのも一苦労だった。今は地元で喜ばれ、母も免許を取って買い物や病院に通う。「好きなときに好きなところへ行ける。運転一つで人生が変わった」

 サウジが女性の自動車運転を解禁した狙いは、女性の社会進出を進めて経済を活性化させ、近代化を進めることにある。石油依存からの脱却を目指し、ムハンマド皇太子が主導する改革指針「ビジョン2030」は労働力に占める女性の割合を22%から30%に引き上げる目標を掲げる。

 地元メディアは、女性初の旅客機パイロット、消防士、ツアーガイドなどのニュースを報じている。今年2月にはリーマ王女がサウジ初の女性大使に任命された。女性の人権状況改善を印象づけ、外国の投資を呼び込む狙いもありそうだ。

 ジッダの幹線道路沿いにある韓国車の店では、ナディア・マリキさん(35)が女性客に小型SUV(スポーツ用多目的車)を薦めていた。運転解禁を機に雇われた女性販売員の一人。「私たちの社会では、女性客には女性が対応する方がいい。新しい仕事を見つけた私は改革の先頭を走っているような気分です」と声を弾ませた。

教習所少なく4カ月待ちも

 女性の運転解禁で自動車メーカーは女性向け広告を出し、女性が友人とドライブを楽しむドラマが放映され、機運が一気に盛り上がった。免許を取った女性は約7万人。だが地元の住民や記者らによれば「全体に占める割合は数%。普及にはまだ時間がかかる」。

 サウジでは公共の場所で不特定多数の男女が同席するのは避けるべきだとされ、女性が学べる教習所は全国に5カ所ほどしかない。教習開始まで4カ月待ちの場合もあったという。運転経験のなかった中低所得層にとって約2500リヤル(約7万2千円)の費用や車の購入代金は安くない。

 大学時代のインド留学で運転経験のあるサラー・ファーデルさん(44)は、友人らに個人レッスンをしている。教習所に通えない人に自信をつけてもらうためだ。自身のSNSページでは、販売店で店員が車の性能を説明する様子などを投稿し、相談にも乗る。「一握りだが女性が運転しているのを見て笑ったり、遅い車にクラクションを鳴らしたりする男性もいる。教習費用の補助を含め、女性が運転しやすい環境が整えば」と願っている。

 女性の運転に反対する声も根強い。解禁直後には西部で女性の車が放火される事件が起きた。ジッダに住む女性(38)は「妹が大学に通うため免許を取ろうとしたが、未婚女性が好き勝手に動くのをよく思わない父親や親戚が反対している」と打ち明ける。

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