選手1人、マネジャー2人の冬 諦めなかったら春が来た

田島知樹
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 ノックの打球を捕球した上市高(富山県)の碓井優希(3年)に「ナイスプレー!」と声がかかった。碓井にはこの春まで、一緒にプレーし、そんな声をかけてくれる仲間がいなかった。

 ここ数年、選手不足に悩まされてきた上市。昨夏の富山大会は4年ぶりに単独チームで出場した。碓井も捕手で出場したが、1回戦で1―13のコールド負けを喫した。

 11人の選手のうち9人が3年。1人は試合のために他部から来てくれた「助っ人」で、大会後に残るのは碓井だけ。1人で何ができるのか。碓井は監督の竹島佳佑(29)に「やめます」と伝えた。しかし、竹島は「続けよう。絶対来春に人は来る」と引き留めた。

 部員は碓井とマネジャーの赤間向日葵(ひまり)(2年)と山海蒼音(あおね)(同)。練習時間になると碓井が1人でアップし、その後は竹島とのキャッチボールやマシン打撃に取り組んだ。冬の間は黙々と筋トレとダッシュを繰り返した。自分のためだけに練習時間になると来てくれる赤間や山海に申し訳ない気持ちになった。

 ただ、野球部はやめなかった。父と兄が上市野球部OBで、自分がやめて野球部がなくなったらどう思うだろうか。「きっと春には新入部員が来る」。孤独な練習に耐えた。

 春、待望の新入部員が来た。しかも5人。そのうちの1人は昨夏の助っ人の稲田真弥(2年)だった。

 稲田はボクシング部で北信越大会に出場する実力の持ち主。ただ、勝っても負けてもボクシングは1人。チームメートと一瞬を共有する野球の楽しさを忘れられなかった。そして、1人で練習する碓井への「申し訳なさ」も感じていた。

 新たなチームでは、碓井が投手で稲田が捕手。稲田はショートバウンドも体で止める。「痛いのは慣れている。ボクシングのおかげ」と笑う。

 チームの目標は「甲子園出場」。「せっかくなら目標はでっかい方がいい」と主将としてチームを引っ張る碓井。竹島は「責任感を持ってやってくれている。何よりグラウンドで楽しそう」と碓井を見つめる。

 碓井は今、感謝の気持ちを胸に甲子園を目指している。おにぎりを作ったり、ボール拾いをしてくれた赤間と山海。厳しく、優しく指導し、キャッチボールの相手になってくれた竹島。野球部に帰ってきてくれた稲田。「みんなのおかげでまた野球の楽しさを味わえる。この仲間たちと試合に勝ちたい」=敬称略田島知樹

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