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 「捕れー!」「あきらめんな!」。市川高(山梨県)のグラウンドにひときわ大きな声が響く。

 今月上旬、3日間にわたる「個人ノック集中練習」。夏の高校野球山梨大会を前に、自らを追い込み、ひたすらボールを追う。やり遂げることが、チームの団結力をさらに高める。

 「佐野の頼みなら」。市川伝統の練習にOB10人ほどが駆けつけ、練習を手伝った。

 市川の監督、佐野大輔さん(37)は1999年春の選抜、捕手として甲子園でプレー。2勝して準々決勝に進んだ。

 その8年前の選抜、「ミラクル市川」の名が全国にとどろいた。無名の公立高校が初めての甲子園で4強。小学生だった佐野さんもテレビで活躍に胸躍らせ、「市川に入って甲子園に行きたい」と夢をかなえた。

 今年4月、保健体育教諭として母校に赴任。監督に就いた。「市川」の名ではおそらく、最後の監督として。

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 市川は来春、増穂商(富士川町)、峡南(身延町)の両校と統合される。統合が正式に決まったのは、現3年生が入学する前の2016年9月だった。

 佐野さんらの時代、40~50人はいたという選手数は現在23人。2年は2人、1年は4人しかいない。3年生が引退すると人数が足りないため、秋の県大会に単独では出場できない。

 今年の個人ノック集中練習には、佐野さんとともに甲子園で戦った同学年のエース高室卓也さん(38)、4番打者の今村春樹さん(37)もやって来た。

 1人30分から1時間ほど、ノックを受け続ける。選手たちは泥まみれになりながら、「捕ってやるー!」と自らを鼓舞し、食らいつく。時がたっても、その姿は変わらない。

 今村さんは選手たちに「頑張れよ」と声をかけた。「後輩たちには1回でも多く校歌を歌ってほしい。あいつ(佐野さん)には、選手のみんなに勝つ喜びを伝えてほしい」と願う。

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 今春の県大会、市川は初戦で大敗した。夏に向けてどうするべきか、チームに足りないものは何か。翌日、意見をぶつけ合い、選手たちの夏への意識は一気に高まった。各自ばらばらだった練習前のウォーミングアップは、「より気持ちが入る」と全員でやるようになった。

 新設される高校の名称は決まっていない。校舎は市川高の敷地と隣接地に建設されることになり、工事の真っ最中だ。クレーンで鉄骨が組み立てられるそばで、選手たちの声や打球音が響く。

 主将の望月健太君(3年)は、部室棟の壁に掲げられている91年の「甲子園春夏連続出場記念」と書かれた看板を見て気持ちを高める。「OBの方々が作ってきた歴史を、最後の代となる自分たちがつなげたい」

 「見る景色がだんだん変わっていくのはさみしい」という佐野さん。「このタイミングで、母校の監督を務めるのも何かの運命。本気で甲子園をめざします」と言い切った。(玉木祥子)