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 埼玉県と接する東京都瑞穂町の山あいにある瑞穂農芸の校庭で夕方、7人の野球部員が外野ノックを受けていた。

 「頭を越されないように回り込んで落下点に入れ」「中継を受ける野手は大きくジェスチャーして」

 唯一の3年生で主将の宮岡童夢(どうむ)が、下級生6人を指導する。校舎の時計が午後5時を指すと、急いでバッグを抱えて校庭を後にする。10分後に始まる授業を受けるためだ。

 部で唯一の定時制の生徒で、授業が終わるのは午後9時前。照明のたかれた校庭に戻り、定時制の教諭でもある監督の藤本清隆(32)と2人で約30分間、キャッチボールや打撃練習をこなす。

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 中学時代は軟式野球をしていたが、勉強が苦手で、卒業してすぐに働くことも考えた。ただ、一つだけ心残りがあった。

 「甲子園を目指してみたい」。入試で学校に提出した自己PRの書類に、宮岡は書いた。それを藤本が覚えていた。「全日制と定時制に壁はない。一緒に野球をしよう」

 当時は全日制を合わせても、部員は数人。土日は連合チームを組む五日市のグラウンドで練習した。「一緒に試合に出てくれる仲間の力になりたい」と、平日は藤本と技術を磨いた。藤本がマウンドに立ち、野手のいないフリー打撃を一日150球こなした。今は全日制の下級生が増え、午後3時半に始まる全日制の練習にも顔を出す。

 「夜間の授業を言い訳に、昼夜逆転した生活だけは送りたくない」と、入学直後から自宅近くのコンビニエンスストアで平日午前6時から3時間、アルバイトしている。給料で練習用ユニホームやアンダーシャツなどの道具を買う。藤本は「授業も無遅刻無欠席。人間的にも大きく成長してくれた」と目を細める。

 宮岡の今夏の所属チームは「五日市・瑞穂農芸」で、今年も練習を共にする五日市との連合だ。「2年間、ずっと一緒にやってきた。同じ高校の部員と気持ちは同じ。チームワークで、目の前の勝利をつかみとりたい」

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 少子化や野球離れを背景に、都内でも近年、野球部員が減っている。現行制度が導入された2012年に2チームだった東・西東京大会の連合チームが、今夏は6チームに、他校から部員を派遣してもらうのは1校から4校に、それぞれ増えている。=敬称略(原田悠自)