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 「体が発達段階の高校生に、100球以上も投げたあとに連投させるのはおかしい」

 群馬県の渋川青翠の清水哲也監督(39)は、投げすぎで骨が変形する「野球ひじ」などに詳しい医療関係者と交流し、子どもたちの将来性を重視するドミニカ共和国で指導法を学んだ経験から、球数制限推進派だ。

 私学優位の中にあって、昨秋の群馬県大会4強の「公立の雄」だが、選手は34人で大所帯ではない。エース宮下侑君(3年)が頼みの綱で、公式戦はすべての試合で先発。そんな状況でも、練習試合を含めて登板前に目安の投球数を確認してきた。

 清水監督は一方で「理想と現実がある」とも語る。勝負がかかった大切な試合では「あともう少し」と葛藤しながら投げ続けさせてしまい、勝っても自分の判断に落ち込むことがあるという。「球数制限ができれば、指導者もルールの中で工夫するはず。選手もどう球数を有効に使うか考えるようになる」と話す。

 肩やひじの故障から選手たちを守ろうと、高校球界で球数制限の導入が議論されている。一つも負けられない甲子園をめざす戦いとの両立に、指導者たちは頭を悩ませている。朝日新聞が夏の群馬大会に出場する全67校の監督にアンケートで尋ねると、球数制限に「賛同する」と答えたのは全体の1割程度。4分の3以上は「賛同しない」と回答した。

 賛同しないのはなぜか。部員数が少ない公立校が選手層の厚い私立校に対してより不利になるのではないかという意見。「勝負にこだわってもいい」「投球スタイルや体格に個人差があるのに、一律制限はおかしい」などの回答もあった。

 館林の細堀和弘監督(43)は、1週間の投球数を多くても300~350球とし、けがの防止には気を配る。ただ球数制限には否定的だ。試合の間隔を空けることを優先するべきだとし、「相手投手の球数を意図的に多くさせるような作戦が生じかねない」と懸念する。

 渋川青翠のエース宮下君も「体は問題なく投げられるのに、マウンドを途中で降りれば悔いが残る。一試合で多く投げても、ちゃんと休めば問題はないと思う。ケアの方法も大切」。福岡県高校野球連盟がこの春に実施したアンケートでも、野球部員の87%は「反対」と回答した。

 球数制限を議論していた日本高野連の有識者会議は6月上旬、大会終盤の一定期間の総投球数に制限を設ける方向性をまとめた。野球に関わるけがの患者を多く診る慶友整形外科病院(館林市)のスポーツ医学センター長、古島弘三さん(48)は一定の効果はあると見る。

 ただ、同院を訪れる年間約800人の新規患者のうち4分の3は高校生以下。「指導者はそもそもけがをさせないためにいる存在だが、多くの子どもたちが深刻なけがを負っていることに気づけていない。現状はルール導入の是非を話し合っている場合ではない」と指摘する。

 古島さんの調べでは、小学生でひじを痛めた選手の約半数が高校でも痛みを再発。小学生でひじを痛めなければ、その後の発生率は10%以下に抑えられるという。そのため高校野球だけでなく、少年野球などでも広く球数制限を設けるべきだと考える。「ルールの導入だけでなく、指導する大人たちが現状を認識し、正しい知識を持てる仕組み作りも必要だ」(森岡航平)