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 高校通算30本以上の本塁打を放ち、山形県内屈指の強打者として知られる酒田南主将の伊藤海斗選手(3年)。身長187センチ、体重88キロの大きな体から繰り出されるフルスイングが持ち味だ。選手の体づくりに食は欠かせないが、伊藤選手はどんなものを食べているんだろう。伊藤家の食卓をのぞかせてもらった。

 6月下旬、酒田市内の祖父母の家に伊藤選手が帰ってきた。遊佐町に実家があるが、練習で遅くなるとグラウンドに近い祖父母宅に泊まることも多いという。

 台所には立つのは、父の薫さん(49)。大皿に盛った約2合の白米の上に、ハンバーグや目玉焼き、ブロッコリーなどを手際よく盛り付ける。

 「いただきます」。食べ進める伊藤選手。見つめる薫さんは「ご飯とおかずを一緒に食べやすいように盛り付けを工夫しています」と話す。疲労回復や栄養補給のため、冷蔵庫には果汁100%のグレープフルーツジュースや野菜ジュースも常備している。

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 「半年間練習してなかったから、野球の神様が打たせてくれなかった」

 薫さんが台所に立ち始めたきっかけは、伊藤選手の兄、匠さん(21)のこんな一言だった。

 匠さんは羽黒の4番打者として活躍し、3年時の2015年夏の山形大会では決勝に進んだ。だが決勝で匠さんは無安打に終わり、チームも甲子園への切符を逃した。

 大会後の夏休み、匠さんは寮から実家に戻った。家の車庫で伊藤選手と一緒にバットを振っていた匠さんが、大会前のけがで長期間練習できなかったことを悔やむのを、薫さんは聞いていた。

 「同じ思いはしてほしくない。何かできることはないか」。17年に伊藤選手が酒田南に入学すると、薫さんは考えた。思い出したのが、匠さんが羽黒に入学した際に同校で一緒に受けた栄養講習だ。自身にスポーツ経験はないが「食で支えることならできるかも」と思い立った。

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 「料理は趣味程度」だった薫さんだが、けがをしにくい体を食事でどうつくるか調べた。詳しい知り合いに話を聞いたり、アスリートの健康管理に特化したレシピ本を読んだり――。

 「筋肉と骨のバランスが崩れるとけがにつながる」と学び、良質なたんぱく質とカルシウムを含む卵を日々のメニューに採り入れた。「体脂肪率は15%以下が理想」ということで揚げ物は控えめに。栄養が偏らないように、刻んだ野菜を混ぜ込むのも自分なりに考えた工夫だ。練習を終えて遅くに帰宅する伊藤選手のため、夕食を作り続けた。

 朝早くに台所に立つのは母・美香さん(52)だ。大きなおにぎりと、チーズや鶏のささみ、ゆで卵を使ったサラダなど伊藤選手の昼の弁当を準備する。ハードな練習に耐えるため、炭水化物やたんぱく質、カルシウムなどバランスよく摂取できるように気を配る。

 父母の料理のおかげか、伊藤選手は高校入学以来、大きなけがをしたことがないという。練習も試合も休まず参加し、着実に成長を続け、この夏を迎える。

 「けがをしないように。それが全てです」と薫さん。そう語る父の前で、伊藤選手は照れくさそうにこう話した。「おいしくて、パワーになっています」