[PR]

 打力向上のため、練習前後におにぎりなどをほおばる球児を最近よく見かける。いわゆる「食トレ」だ。体重を増やし、筋力を強化する効果があるという。

 「冬場に食トレで10キロ増量し、打球が飛ぶようになった」「合宿では毎日、練習前に白米2合を食べるのがノルマ」。取材ではそんな話も耳にする。

 山形県の高畠高校野球部は、管理栄養士を招いた講座など独自の食育の取り組みを実践している。

     ◇

 2014年夏から、丸山信輔監督(37)は食トレによるチーム強化に乗り出した。選手10人の「身長マイナス体重」の値を100以下にするという数値目標を掲げた。強豪・大阪桐蔭を参考にした数値だ。

 「1日に4500キロカロリー摂取しよう」と選手や保護者に呼びかけ、練習後や授業の合間に白米や卵、納豆、魚肉ソーセージなどを食べさせた。

 効果はすぐに現れた。15年2月までの7カ月間で、10人の体重は平均10キロ増加。パワーをつけた選手たちは長打が増え、1試合の平均得点数も「5点ほど増えた」という。同年秋には16年ぶりの県大会出場を果たした。食トレを続け、翌16年秋も県大会への切符をつかんだ。

 だが丸山監督は疑問を感じ始める。「食べた分だけ、パワーはつく。でも、勝つために無理やり食べさせていいのか」

 17年に顧問に加わった家庭科教諭の三好美智子部長(56)は「当時の食トレは野菜がなく、バランスが悪かった」と振り返る。

 「疲労回復やケガの防止にはビタミンも必要。彩りがあれば食べるのも楽しくなる」と、18年から野菜たっぷりの「どんぶりデー」を始めた。食べる意味を考えてもらうため、食育講座や調理実習も採り入れた。

 高校野球は3年間だけだが、食との付き合いは一生続く。せっかく食べるなら食との向き合い方も学ぶべきだ。丸山監督はそう思い至った。

     ◇

 丸山監督が今、掲げているのは「食で自分の体をデザインする」ことだ。自身も無料のウェブサイトを使って食生活を管理。昨夏から約1年間で体重を92キロから20キロ落とし、選手たちを驚かせた。

 触発された4番の市川隼人捕手(3年)も今冬、俊敏さを高めようとダイエットに挑戦。たんぱく質と野菜中心の食事で1日の摂取カロリーを抑え、走り込んで体重を3キロ落とした。

 逆にエースの丹優哉投手(3年)は球威を増すために3キロ増量。食が細い方なので、まめに間食を取るように工夫したという。

 「自分で考え、好きな体になったらいい。食で体を変える方法を3年間で身につけてほしい」と丸山監督。部活動は目標を定め、それを達成するプロセスを学ぶ場と今は考えている。

     ◇

 高畠高校がある高畠町は有機農業の里として知られる。同校は15年ほど前から、有機農業を実践的に学ぶ独自の授業も設けている。現在の担当は、同町出身の丸山監督だ。

 生徒たちは、町内の有機農家の話を聞き、学校近くの畑で有機野菜を育てる。野球部の選手たちも練習後に畑作業を手伝い、収穫した野菜は「どんぶりデー」でも使われる。市川選手は「育てる大変さや収穫の喜びを知り、食べ物そのものに興味がわいた」と話す。

 野球のために食べるのではなく、野球を通じて食を学ぶ。高畠野球部の探求は、まだまだ続きそうだ。