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 技術向上と同時に、スポーツの大きなテーマである傷害予防。新たな考え方やITを採り入れる学校もある。

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 「市ケ尾 Pitch Smart(ピッチスマート)」。こんな題名の1枚の紙が、一昨年の秋の大会後、市ケ尾高(横浜市青葉区)の野球部ロッカーに貼られた。

 練習や試合で投げた球数によって、次に投球するまでに空けるべき「休息日数」を決めた表もある。35球以下は0日、36~50球までは1日、100球を超えたら5日――。投手陣はこの表を見ながら「練習試合で70球投げたから、水曜までは投げられないな」「日曜の試合で登板する予定だから、金曜に40球、土曜は休もう」と計画を立てる。

 考案したのは、菅沢悠監督。前任校で、中学時代にひじの手術経験がある部員を指導した経験から、「けがをしていない選手がいてこそ試合が成り立つ。守りながら投げさせるしかない」と強く意識した。「1試合100球まで」などと上限を設けるわけではなく、「休み」を確保する海外の考え方を知り、「これだ」と導入した。

 当初は、部員から「もっと投げちゃダメですか?」と質問が出たことも。羽生荘介君(3年)は、ちょうど上手投げから横投げに変えた時期でもあり、ピッチスマート導入で「練習量が足りなくなるんじゃないか」と不安になった。でもやってみると、週末の練習試合で見つけた課題を、平日の「休み期間」にシャドーピッチングなどで調整し、次の試合に臨むリズムができた。

 「投げ過ぎることがなく、安心して練習できる」と話すのは佐藤陸斗君(2年)。中学までは「休みたい」と言いづらく、たまった疲れもあって高校入学直後にひじを痛めた。だが、ピッチスマートのおかげでその後はけがをせず、練習や試合に取り組んでいる。

 思わぬ副産物もあった。制限で投げられない投手がいるため、ほかの投手にも登板機会があり、複数の投手が育ったことだ。

 外野手のつもりで入部した大脇文仁君(3年)は、球速が100キロもなかった1年生の時から試合で登板。打たれたりストライクが入らなかったり、「他の高校なら投げられるレベルじゃなかった」。登板の機会をチャンスと捉えて練習するうち、球速は130キロを超え、夏は背番号1を背負う。

 チームでは現在、5人が投手を務められる。「みなで責任感を共有し、夏を投げ抜きたい」

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 「ミーティングを始めます」。かけ声とともに、生田東高(川崎市多摩区)の部員たちが一斉にスマホを取り出す。日々の反省や気がついたことなどを記す「野球ノート」を入力するためだ。

 使うのは専用のソフト。日々のノートに加え、毎朝起きたら体調や体重などをスマホで登録。手島悠大監督ら指導陣は自宅でも学校でも、タブレットで確認できる。睡眠時間が短い部員がいれば練習の途中で帰らせたり、ひじや肩の疲れを訴える部員がいれば休ませたりする。毎日記録することで、部員自身も自己管理や傷害予防の重要性に気づいていく。

 多くの学校と同じように紙のノートを使っていたときは、朝、学校で回収し、手島監督が授業の合間に読んでコメントを書き、放課後に部員に返していた。管理が楽になった今は、指導陣が部員と接する時間が増えたという。

 猿田修平君(3年)は、いつも登下校の電車の中でノートを読み返す。練習試合で同じ学校と当たるときも検索すればすぐに前のページが出てくるし、体重やスイング速度などは週や月単位でグラフにできる。

 秋春は、選手12人で予選を勝ち抜き、県大会に出場。「誰かがけがしたら終わり」という中、専門家によるメディカルトレーニングに加え、ソフトの機能が大きく役立った。手島監督は「大人も、パソコンでメモを取ったりスマホで会議を録音したり、IT機器を活用する。野球にも役立てながら、そうした社会人としての力を育てる機会にもしていきたい」。(木下こゆる)