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 キャッチボールをする高岡南高(富山県)の選手たちの顔には、一様に笑顔が広がっていた。「よっしゃ、ナイスボール!」「きれいな回転。その球、最高!」。1球ごとにそんな声を掛け合う選手たちを見て、監督の上野直喜(53)は「本当に楽しそうにキャッチボールしているでしょ?」とうれしそうに話した。

 上野が同校の監督に就任したのは昨夏の富山大会終了後。新チームとしてスタートした選手たちがキャッチボールで投げる球は山なりで、声にも張りがなかった。「キャッチボールには野球の魅力がたくさん詰まっているのに」。上野の指導はキャッチボールから始まった。

 どこに投げれば相手が次のプレーをしやすくなるのかを考える。良い回転の球を投げた相手には思いっきり褒める。上野はそんな姿勢を選手たちに説き、チームプレーで重要な「思いやりの心」を求めた。次第に、キャッチボールの雰囲気が変わった。

 冬を越えると、課題だった送球ミスが激減。カットプレーも素早くなった。外野手から本塁への送球は、捕手が走者にタッチしやすいところにくるようになり、本塁でのタッチアウトが増えたという。

 「キャッチボールは深くて、面白い」と中村夏己(なつき)(2年)と小川幸幹(こうき)(同)は口をそろえる。仲の良い2人はキャッチボールのペアもよく組む。「キャッチボールで相手の調子も分かる」と中村。小川は「コミュニケーションだよね」と返す。

 2人とも小学生の時に野球を始めた。家族とのキャッチボールから野球の楽しさに目覚めた。大切な「原点」のキャッチボールだったが「いつの間にか、ただのルーティンになっていた」と中村は話す。

 中村には忘れられない試合がある。昨夏の富山大会2回戦の高岡龍谷との試合で、バントを捕球した投手が三塁手の中村に2度、悪送球をしてしまった。失点につながり、試合はコールド負け。中村は「『ここに投げてくれ』とアピールできていなかった」と悔やむ。「だからキャッチボールの時から、声がけを特に意識します」

 日々の練習で繰り返す約20分のキャッチボールに、選手たちは全力を傾け、楽しむ。上野は言う。「キャッチボールから選手は大きく成長できる」。野球の楽しさを改めて確認したこの1年の成果を示す時が、もうすぐ来る。=敬称略(田島知樹)