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 スマートフォンやパソコンをインターネットにつないで、グーグルで検索、アマゾンで買い物、フェイスブックで「いいね!」――。私たちのくらしに欠かせないインターネット。そのサービスの多くは、「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT企業が提供しています。こうした企業は巨額の利益を上げているのに、それに見合った税金を払っていない、との不満が急速に高まっています。大阪で開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でも重要な議題の一つでした。なぜGAFA課税を巡る問題が起きているのか。取材を始めた私たちは、ある専門家に話を聞くことができました。プラットフォーマーは、私たちのデータをもとに日本でも大きな利益をあげています。そこへ日本の国税庁は手を出せないまま、税金の安い国に流出している。そんな驚くべき仕組みが明らかになったのです。

 取材をしていると「ああ、この人は本当のプロだな」と感じることがあります。記者として喜びを感じる瞬間です。「GAFA(ガーファ)」と呼ばれるグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンなどの巨大IT企業にどう税金をかけるかというテーマについて取材した時、そんな人に出会いました。それが山川博樹さんです。

 国税庁に32年間勤務し、調査査察部の調査課長などを歴任した「国際課税」のプロ中のプロ。2014年の退官まで、各国の当局とともに、グローバル企業への課税という課題に取り組んできました。現在はデロイトトーマツ税理士法人で、企業に国際税務の助言をしています。

 国際課税の議論がいま、何十年に一度という大きな転換期を迎えています。その背景には、どの企業も無縁ではいられない産業構造の変化、企業のグローバル化、ネットの発展という大きな波があります。いま国際課税の分野で何が起きているのか。山川さんのガイドで少しずつ、ゲームを攻略するように順を追って話を進めたいと思います。

なぜ巨大ITの課税問題が?

 ――そもそもですが、巨大IT企業は世界中ですごくもうかっているみたいですけど、ちゃんと税金を払っているんでしょうか。

 山川さん「納税をしています。脱税とか法律に違反するようなことはしていません」

 ――ではなぜ、「IT企業が税金をちゃんと払っていない」という話になるんですか。

 「税制がいまのビジネスのやり方についていっていないからです。それで、納税額が本来納めるべき額より少ないのでは、との見方が出ているんです」

 ――このところ特にそういう話で盛り上がっていますよね。

 「これらの企業のプレゼンスが上がっているからです。皆さんは検索やショッピング、友人・知人との交流でIT企業のサービスを使いますよね。誰がどんな検索をしているか、どんな商品を買っているか、というデータがIT企業に入ってきます。こうしたデータを独自の『アルゴリズム』(計算の手順)で解析し、個人の好みにあった広告を表示させる。それで大きな利益を上げているわけです」

税負担に不公平感

 「利益のおおもとは、皆さんが『便利なサービスを無料で使うかわりに、IT企業に差し出している個人データ』です。これが、日本の政府にとっては重要なんです。『うちの国民の個人データをもとにずいぶん利益を上げているんじゃないか。それに見合った税金を払ってほしい』と。存在感にふさわしい税金をとれないのは、税務当局にとっては悔しいんです」

 ――プロとしては悔しいわけですか。

 「みんなが税金を公平に払っているという感覚があってこそ、国民は政府を信頼します。逆に、『すごく利益を上げている会社がそれに見合った税金を払っていない』という疑念が広がると、税金を払うのがイヤという人が増えてしまう。それは税務当局にとっても正直、望ましくない状況です」

 ――OECD(経済協力開発機構)の試算では、米国のIT企業がタックスヘイブン(税率の低い国や地域)を利用して節税することで、全世界の法人税収は10兆~24兆円も減っているといいます。

 「その分を、他の誰かが負担していると思ったら、不公平な感じがします。同じ所得があれば、同じ税金を払ってもらう。いつの時代も変わらない税金の原則です」

巨大ITが明かさない秘密

 ――プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業は各国・地域でそれぞれどれくらいの利益を上げているんでしょうか。

 「国や企業の開示制度によりますが、実はほとんど公にされていないんです。多くのグローバル企業は、国別の売り上げやもうけがどれだけあるかを、必ずしも公表していません」

 ――たとえばグーグルが日本でどれだけ利益を上げたか、税金を課す側も知らないんですか。

 「仮に、日本を含めたアジア各国のお客さんと取引を行っている会社の拠点がシンガポールにあって、売り上げがそこの帳簿にまとめられてしまえば、国ごとの売り上げがわからない、というようなことはままあります」

 ――日本での売上高と利益がわからないと、税金をかけるのに苦労しますね。

 「そこで『国別報告書』というのがあります。各企業がそれぞれの国での収入、利益、納税額などを記載し、親会社のある国の税務当局に提出するものです。進出先の国の税務当局との間で情報交換制度を通して共有します」

 ――それで全容がわかるんですか。

 「そうでもないんです。たとえば米国のIT企業がシンガポールの子会社にアジア各国の広告売り上げを計上している場合、国別報告書には、国ごとの売り上げは出てきません。報告書の提出先は、親会社のある米国の税務当局です。米国の税務当局や、情報交換制度を通じて国別報告書を入手する進出先国の税務当局は、その企業のアジア各国の収入の合算を知ることになりますが、各国の内訳は書かれていません」

国境のカベ

 ――国別報告書でも把握できないんですか。

 「いま挙げた例でいくと、現行制度では、日本の課税当局は米IT企業の日本法人に対し、日本での売り上げや所得に応じた形では税金をかけることは難しいです。政府間の個別の情報交換は、相手国の課税権の行使に明らかに関連のある情報にのみ限定されます。課税権もないのに、なぜその情報が必要なのか、ということになるわけですから。だからOECDは、国別報告書の仕組みを作るとき、売り上げが計上されている国の情報を求めても、お客さんのいる売上先の国ごとの情報を求めることはしませんでした」

 ――そもそも、の話ですが、プラットフォーマーの日本の子会社の売り上げはどこに行くんでしょうか。日本企業が米国のプラットフォーマーのサイトに広告を出したとき、広告料はどこに払っているんでしょうか。

 「これまでに明らかになっているところでは、プラットフォーマーは日本や米国よりもずっと法人税率が低いルクセンブルクやシンガポールに子会社を設立する例が多いです。日本企業はその会社に広告料を支払っている例もあります」

 ――日本の子会社は何をしているんでしょう。

 「仮に、日本での広告主とおつきあいしたり、地図データを集めたりしているとしましょう。そうした業務を担う社員を雇う人件費などのコストをカバーするお金が、本社から出ている例があります。こうした場合、人件費やオフィスの賃借料などのコストに5~10%のマージンをかけた所得があるとみなして税金をかけるくらいが妥当なわけです」

どういう理屈で課税する?

 ――あまり大きな額にはなりませんね。巨大IT企業の存在感にみあった課税をするには、どうしたらいいんでしょう。

 「日本市場でモノやサービスを売るなら、倉庫やアフターサービスの体制を整える工場や支店、代理店を置くのが普通です。付加価値をつけるわけです。そのために重要な仕事をしているところ、これを『恒久的施設』(PE=パーマネント・エスタブリッシュメント)と言います。IT企業のPEが日本にあり、広告費が支払われるシンガポールにある会社と日本市場との間に『結びつき』があれば、『課税の根拠』となり得ます」

 「この課税の根拠のことを、国際課税の世界では『ネクサス』(結びつき)と呼びます。ネクサスがあれば、日本の国税庁がシンガポールにある会社の所得に税金をかけることができます」

 ――日本からシンガポールの子会社に税金をかけるんですか。

 「先ほどみたように、日本の子会社には、『日本であげている大きな利益に直接貢献している』と考えられるような機能がないわけです。それでは日本における存在感に見合うような本質的な課税にはなりません。PEという考え方を使う必要があるのは、日本のお客さんと直接商売しているシンガポールやルクセンブルクにある会社を相手に課税しようとする場合なんです」

 ――そんなことができるんですか。

 「IT企業はネット上で商売をしているので、これまでの国際課税のルールだけでは無理です。そこで、PEの解釈を拡大するための理屈と制度をいま、国際的に議論しているんです」

スタバへの批判

 ――グローバル企業への課税がクローズアップされたきっかけはスターバックスでした。2012年、英国でほとんど法人税を納めていないことがわかり、ボイコット運動が起きました。

 「報道などによると、スタバはわざわざスイスを通してコーヒー豆を買い、オランダで焙煎(ばいせん)していました。いずれも法人税率が低い国です。そこから、高い値段で豆を買い、英国では利益が出ないようにして節税していたとされています」

 ――そんな複雑なことを! すべては節税のためですか。

 「税金、特に法人所得税というのは『価値が創造されるところ』で払うのが大原則。これが『移転価格税制』の考え方です。移転価格とは、親会社と子会社などグループ会社の間で取引する時の価格です。この移転価格と、『グループ外の第三者』と取引した場合の価格と比べ、ズレがあったら税金をかけるんです。グループ会社からわざと高い豆を買って利益を減らそうとするのは移転価格税制の上で問題になります」

 ――サービスの場合はどうなるんですか。

 「同じです。企業は、それを提供するためのノウハウやプログラムといった『知的財産』が必要です。それを使うためのお金(ロイヤルティー)を払いますよね」

 ――プラットフォーマーで「原材料」にあたりそうなのは、個人の検索履歴を集めたビッグデータでしょうか。それを値付けして「移転価格」を計算することなんてできますか。

 「データはクリック1回ごとに価値があるわけではなく、大量に集めて解析して初めて価値が生まれるわけです。コーヒー豆を焙煎したり加工したりするように、日本でユーザーに参加してもらい、そうして集めたデータを解析する作業、ここに『価値創造』があるわけです。でも、この部分は日本ではやっていないんです」

その国で価値を生んでいるか?

 ――コーヒーのように単純ではなさそうです。

 「ユーザーをたくさん集めて参加してもらうための研究開発やデータの解析は米国の本社、多くがシリコンバレーの本社でやっています。データ解析のプログラム(アルゴリズム)は、『知的財産』です。それは日本にない。日本では『価値創造』が行われていないんです」

 ――では日本でどう課税するのですか。

 「プラットフォーマーの知的財…

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