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 「乙訓(おとくに)高校、24番です」。6月22日にあった第101回全国高校野球選手権京都大会の抽選会で、同校3年の吉川遼祐(りょうすけ)君(18)の声が響いた。6日開幕の今大会に参加する75チームのうち、主将以外でくじを引いたのは吉川君だけだ。治療で来られない主将に代わり、市川靖久監督(36)が大事な抽選を託した。

 吉川君は1年の秋、慢性骨髄性白血病と診断された。1カ月の入院を経て復帰。症状は安定しているが、服薬を続け、数カ月ごとに経過を診てもらっている。ベンチ入りが厳しいことがわかると、今年3月に学生コーチを志願。夏に向けて支える側に回った。

 抽選会の急な代役。監督は「信用できるあいつしかいないと思った」と言う。こつこつと取り組み、チームのために動く。監督はそんな姿を見ていた。

 「選手としては引退した身。甲子園がかかる大会の抽選に参加でき、忘れられない経験になった」。壇上の吉川君はあがっていた。段取りを忘れ、下りる階段を間違えるくらいだ。

 白血病の発覚はたまたまだった。持病のリウマチに効く薬があると聞き、適合性を調べるために採血した。白血球が異常に多いことがわかり、すぐに入院した。担当医から「野球ができなくなるかもしれない」と告げられ、涙が流れた。

 チームは秋の近畿大会に出場中だった。病室でインターネットを見て、智弁学園(奈良)戦に勝ち4強入りしたことを知った。もちろん、うれしい。ただ、置いて行かれるような気もした。でも、離れるとなお野球がしたくなり、やめようとは思わなかった。

 白血病は慢性だった。急性と異なり、抗がん剤治療は必要なく、退院後間もなくグラウンドに戻った。「やっと戻ったな」「ちょっと白くなったんちゃう」。次々に声をかけてくれた仲間に、初めて病名を打ち明けた。

 乙訓は選手92人の大所帯。レギュラー争いは激しい。左翼手のポジションを狙ってきたが、主力メンバーが集まる「Aチーム」入りはほとんどなかった。

 ぼくなりの甲子園への本気ってなんだろう。ベンチ入りできないなら、真剣にサポート役をやってみよう。監督に思いを伝えると、「サポートしてくれるのはありがたいが、現役を退くことになるから。考えさせて」といったん預かりに。数日後、監督から「みんなをしっかり支えてほしい」と頼まれた。

 吉川君なら後輩の見本になれる。監督はそう判断した。

 今は1年生の指導係がメイン。きちんとあいさつする。先輩たちとうまく関係をつくる。何かをしてもらったらストレートに感謝の気持ちを伝える。野球とつながると思う「意識面の改革」を進めている。

 1年の伊藤竜輝(りゅうき)君(15)は「なんでも相談できる兄のような存在。ダメなときはしかってくれる」。3年の嘉門凌大(りょうた)主将(17)は「チームのことを一番に考え、自分が見られない選手を見てくれるもう一人のリーダー」と評価する。

 吉川君は、秋の府大会からスタンドで応援団長をしている。人前に立ち、目立つのは嫌いではない。「応援するからにはスタンドで一番目立ちたかった」とはにかむ。立候補して昨年11月から生徒会長になったのも、学校行事で存在意義を見いだしたいと考えてのことだった。

 引いたくじは「最激戦」と言われるブロック。シードの乙訓と立命館宇治のほか、福知山成美、京都翔英、東山といった強豪が並ぶ。吉川君は「グラウンドとスタンドの力を合わせて勝ち上がる。ぼくはその架け橋になりたい」と願う。(高井里佳子)