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 6月下旬、蒸し暑い中で練習試合前のノックを終えた掛川西(静岡)の選手たちが、おわんを次々と口元へ運んでいく。中身はアイススラリー。凍らせたスポーツドリンクをシャーベット状にしたものだ。マネジャーが家庭用かき氷器を使って準備し、試合前や試合中に摂取する。体を内側から効果的に冷やせるという。

 捕手の飛弾野慎之介主将(3年)は「暑いと集中力が途切れてリードに影響が出る。試合終盤に疲れを感じた。熱中症の対策をすると、体の内側から冷えて、頭がすっきりする。疲れも少なく感じる。静岡で優勝するには7試合戦わなければならないので、少しでも体力は削りたくない」と話す。

 近年は猛暑が続く。夏休み期間に開かれる全国高校総合体育大会(インターハイ)や、2020年東京五輪・パラリンピックでも、命を脅かす暑さや熱中症への対策が課題だ。日本高校野球連盟は今夏、地方大会での対策として、都道府県高野連に助成金を支給。各地で様々な対策が進められている。

 静岡県高野連は今夏、ベンチに扇風機を設置したり、日陰を作るため観客席にテントを設置したりするなど11項目の熱中症対策を始めた。県高野連によると、夏の静岡大会で選手が熱中症となるのは例年20件程度だった。だが、酷暑となった昨年は74件と急増した。掛川西では、県高野連メディカルサポート部長で、野球部のトレーナーを務める理学療法士の甲賀英敏さん(40)のすすめでアイススラリーを昨夏から導入した。持ち運びに難があるが、体の外側から冷やすよりも効果が高いという。

 昨夏の静岡大会では、大会序盤で発症するケースが多かった。開幕直前まで試験があったり、梅雨明けとともに急に暑くなったり。甲賀さんは、夏を迎える前から徐々に体を暑さに慣れさせる「暑熱順化」と、準備運動のあり方を見直して体を冷やしてから試合に臨む重要性を説く。「練習を続けてきたのに熱中症で試合途中に退くのはもったいない。ベストパフォーマンスを出せるような準備をすべきだ」

 暑さと並んで選手保護の急務の対策として議論されているのが、投手の肩やひじの障害予防につながる投球数制限だ。投げすぎでけがをし、野球を断念する選手も少なくない。練習のときから投球数を管理している学校もある。だが、福岡県高野連が今春実施したアンケートで「(選手層が厚い)強豪校が有利になる」などと野球部員の8割が球数制限に反対するなど、意見は様々だ。日本高野連が設けた有識者会議は、1試合単位ではなく大会終盤の一定期間の総投球数に制限を設けるという方向性を示し、議論が続いている。

 そうしたなか、打者が有利な「打高投低」の傾向が球数を増やしているという見方がある。

 101回目を迎える夏の全国選手権大会の通算本塁打数は1648本。うち金属バットが導入された56回大会以降で1392本と8割超を占める。99回大会は過去最多の68本、100回大会は歴代4位の51本だった。日本高野連の技術・振興委員会でも、投手の負担軽減のため、バットの新規制を考えるべきだという意見があるという。

 6月上旬、大阪府河南町で大阪学芸が練習試合に臨んだ。選手が使うのは、米国規格の「コンポジット(複合)バット」だ。打つ部分はメープル材で、グリップエンドまでカーボンの芯が入ったウレタン製。打球音は鈍い。反発係数を木製並みに抑える一方で木製より折れにくく、値段は金属製とさほど変わらないという。

 鋭い打球が投手などを直撃する事故が続発したことから米国で導入された。大学の野球規定が改められ、11年から、こうした仕様の複合バットしか使えなくなった。12年からは高校でも導入された。米USAトゥデー紙によると、大学野球の全米選手権で1試合の平均本塁打数は08~10年は約2・5本だったが、基準を導入した11~13年は2試合に1本に減った。

 芯を外しても打球が飛ぶ金属製のバットでは、正しい打撃が身につかないと考えて、複合バットを2年前から練習に採り入れている大阪学芸の小笹拓監督(32)は、投手を守ることにもつながると考えている。

 自身も星稜(石川)から立教大へ進んだ際、木製バットへの適応に苦しんだという。練習試合で本塁打を打った高山揚大君(2年)は「芯に当たれば飛ぶ。飛ばなければ芯じゃないとわかるから、金属バットよりいい」と話す。

 実際に使ってみると、芯に当たらないと飛ばない。金属バットでは、投手は強打をかわそうと厳しいコースを突いて球数を費やし、変化球を多用して肩やひじに負担をかける。小笹監督は「飛ばないバットにすることで球数が減り、投手の負担軽減につながる一因になるのではないか」と話す。

 日本高野連によると、新たな規制を設けるとなると、製品安全協会の基準を満たす必要があり、各メーカーの開発にも費用と時間がかかるのが現状だという。日本高野連の竹中雅彦事務局長は「今、導入の動きが実際にあるわけではないが、将来的に考えていかないといけない」としている。(辻健治、森岡みづほ)

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熱中症予防に詳しい長谷川博・広島大大学院総合科学研究科教授(運動生理学)の話

 熱中症やケガにならないよう、選手を守るには、取り決めの緩和など柔軟に対応することが大切だ。気温や湿度を考慮した「暑さ指数」が一定以上になると試合の合間に給水時間を設けたり、選手交代の制限をなくしたりするサッカー大会もある。熱中症対策で開催期間や会場を変えることや、球数制限をめぐって議論があるなかで、劇的変革は難しいと思うが、理解をさらに深め、一歩ずつ、より安全で、選手が力を出し切れる環境づくりをするべきだ。