金正男暗殺の秘史、どう特報? ドブから蚊…地獄の現場

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聞き手・神田大介
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 マレーシアの空港で不慮の死を遂げた、北朝鮮金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キムジョンナム)氏。事件の真相に迫る連載記事が朝日新聞デジタルで公開されています。実はこの事件、経緯の多くが非公表。事件の舞台となったのはマレーシアで、朝日新聞の支局はありません。では、どうやって取材したのか。言葉はどうしたのか。取材班の中心となった乗京真知記者に聞きました。

 事件が起きたのは2017年2月。主犯格とみられる北朝鮮国籍の男4人は事件直後に出国し、正男氏の遺体も3月末には北朝鮮に引き渡されました。この時点で既に、捜査による真相の解明は極めて難しい状況でした。

 ですが、乗京記者はその後、世界のどこにも書かれていない事実、つまりスクープ記事を連発しています。

 6月10日、米紙ウォールストリート・ジャーナルが「金正男氏、CIAの情報提供者だった」と報じ、話題になりました。ですが、乗京記者は2年以上前に同趣旨の内容を報じています。

「正男氏、米情報機関とつながり? 殺害前に米国人と接触」(2017年5月)

 正男氏が殺害される4日前、マレーシア北部のリゾートの島を訪ね、米国のスパイとみられる男性と接触していたことを、接触場面をとらえた写真とともに報じました。世界で初めて、正男氏の事件前の足取りやマレーシアにいた理由を明らかにした記事です。

 さらに翌月にも続報を出しています。

「正男氏、殺害時12万ドル所持、マレーシアで受け取る?」(2017年6月)

 正男氏が殺害された時、約12万ドル分の札束をカバンに忍ばせていたことを、札束の写真とともに報じました。また、米スパイとの接触前後に、正男氏のパソコンにUSBメモリーが差し込まれた痕跡があることもあわせて紹介。12万ドルが情報提供への対価だった可能性を指摘しました。

 いずれの記事も、後の裁判などで事実だったことが明らかになっています。その他にも、下記のようなスクープがありました。

・「正男氏遺体『北朝鮮に渡さないで』、息子の要望、届かず」(2017年7月)

 正男氏の家族の肉声が公になるのは極めてまれ。

・「世界を逃避『最後の1年』」(2018年8月)

 謎だった近年の暮らしぶりを明らかに。

・「『警察のうっかり』歴史変えた」(2018年11月)

 警察の捜査ミスで遺体の身元が判明したことなどを詳報。

・「『ミスターYに利用された』正男氏殺害罪の被告供述調書を入手」(2019年3月)

 独自に入手した被告の供述調書から、実行犯のベトナム人被告が犯行に至った経緯を詳報。

 ――というわけで、枚挙にいとまがありません。でも、乗京記者はふだん、パキスタンアフガニスタンを主な取材の対象としています。事件が起きたのはマレーシアです。

Q どうやって取材したんですか。

A 情報の主なソースは捜査関…

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