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 妊娠はするけど何回も流産してしまう。繰り返し流産をする人にとっては、励ましのつもりで家族が口にする「また妊娠できるよ」「早く忘れなさい」という言葉にも、子どもを持てない喪失感や母として否定されたような感情、家族への申し訳なさ、また流産しないかという不安が助長されてしまうことがあります。子どもがほしいという気持ちは強くても、流産を繰り返すことで「妊娠は恐怖」と相反する感情を持ち、子どもをあきらめてしまう人もいます。

 流産は全妊娠の15~20%で起こり、その60~80%は胎児に偶発的に生じた染色体異常が原因です。その確率は夫婦が高齢であるほど上昇していきます。2回以上、流産・死産を繰り返すことを「不育症」と言い、日本には不育症患者が2万~3万人いると言われています。

 繰り返し流産をしてしまう人の中には、胎児の染色体異常ではない因子が隠れていることがあります。厚生労働省不育症研究班の報告によると、主な不育症リスク因子としては、抗リン脂質抗体陽性や、第12因子、プロテインS欠乏などの血液凝固能異常があります。

 リン脂質とは、体の細胞の膜を構成する成分の一つです。これに対する抗体(抗リン脂質抗体)が病的に体の中に作られる疾患が抗リン脂質抗体症候群で、血管の細胞膜が攻撃されて血の塊(血栓)ができ、血流が阻害されます。あらゆる臓器には血液が流れており、胎児と母体は胎盤や臍帯(さいたい)という血管でつながっていますので、そこに血栓ができると胎児への血流が阻害されて流産に至ると考えられています。

 抗リン脂質抗体の一種である抗PE抗体(抗フォスファチジルエタノールアミン抗体)は抗リン脂質抗体症候群の診断基準には含まれていませんが、不育症において高頻度で陽性になると言われています。

 第12因子やプロテインS、プロテインCは肝臓で生合成され、血液中にある血液凝固・溶解に関わるたくさんの因子の中の一種です。抗リン脂質抗体とは仕組みが異なりますが、これらの因子が少なくなると血栓を作りやすくなり、流産に至ると考えられています。

 このほか、原因不明とされるものが65・3%にものぼり、国内外で原因解明のための研究が続けられています。

 血液凝固異常に対してはアスピリンという内服薬やヘパリンという注射剤を使って、血液を固まりづらくする治療を行います。患者さんによっては、妊娠前から薬剤を使用する場合もあります。その他のリスク因子についても原因に応じた治療が行われています。

 不育症は治療だけでなく検査するだけでも高額の費用がかかります。アメリカでは検査だけで30万円ほどかかると言われていますが、日本でも10万円前後かかることもあります。

 治療が始まると、妊娠中だけでなく妊娠前から薬剤を使用しなければならない場合や、高額な薬剤を使用しなければならない場合もあり、費用がかさむことで治療をあきらめてしまう患者さんも少なからずいます。

 なかなか妊娠できない人に対して行われる体外受精などの高度不妊治療に対しては、特定不妊治療費助成事業が全都道府県・指定都市および中核市で実施されており、夫婦の合計所得額や妻の年齢などが一定の条件を満たす場合に助成金を受けることができます。

 一方、不育症については現在のところ国からの助成金はありません。市町村によっては不育症の検査や治療に対しても助成金を出すところが近年増加しつつあります。青森県内で助成金を出す市町村はありませんが、県内で不育症の検査・治療を受ける患者さんは増加しており、青森県内でも負担軽減策の実施を願うばかりです。

 弘前大学では、血液の中と妊娠の場である子宮内膜にあるナチュラルキラー(NK)細胞と不育症の関連性について研究をしています。NK細胞とは、細菌やウイルスなど自分以外のものが体内に侵入するとそれを攻撃する細胞です。胎児の半分は自分の遺伝子ですが、もう半分は自分ではありません。通常の働きをするNK細胞であれば胎児を攻撃せず妊娠継続しますが、その働きが異常であったり強すぎたりすると胎児を攻撃して流産に至ると考えられています。

 NK細胞の活動を抑える方法は研究段階ですが、そのひとつにイントラリピッドという栄養剤の点滴が効果があるという報告があり、弘前大学ではNK細胞の異常がある不育症に対して妊娠前もしくは妊娠後にイントラリピッドの点滴をする臨床試験を行っています。また、原因不明不育症に対する免疫グロブリン療法の臨床試験の実施医療機関としても登録されています。

 まだまだ研究段階の疾患ですが、繰り返す流産に悩んでいる人は、まずは検査を受けてみてはどうでしょうか。

<アピタル:弘前大企画・男性も必読! 産婦人科医が語る女性の一生>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(大館市立総合病院産婦人科副部長 山谷文乃)