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 バッティングケージで打撃練習をする名西高校野球部の捕手、後藤泰斗君(3年)。ネット越しに見守っていた上田一彦監督(32)が、ユニホームのポケットからスマートフォンを取り出し、動画の撮影を始めた。5球打ち終えたところで、泰斗君を呼んだ。

 「これを見て、どう思う?」

 泰斗君は自分のスイングをスロー再生で繰り返して見るうちに、はっとした。「体が開いていて、バットが遠回りしていると思います」。上田監督は「やっぱそうやな」と軽くうなずき、スマホをしまった。

 身ぶりを交えて示す上田監督。「軸足に体重を乗せて体が開かないように」「バットはグリップから前に出す意識で」。泰斗君はケージに戻り、動画と監督の身ぶりを思い出しながら、バットを振った。

 「前の感覚が残っているうちに直すべき点が分かるのがいい。まず考えさせてくれるのでやってみようと思える」。朝練や個人でメニューを決める「課題練習」でも打撃フォームの改善に時間を割き、「バットの先が遅れて出るようになり、逆方向への当たりが増えた」と感じている。

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 三塁のポジション争いをしている後藤大貴君(2年)は5月の打撃練習で動画の指導を受けた。

 「ここまでバットが遠回りしているとは思いませんでした」。締めすぎていた脇をほぐすようなフォームを考えるようになり、外野の頭を越す長打が増えてきた。「動画で見て初めて、自分が思うようなバッティングができていないことに気づけた」と振り返る。

 一方、村上真央君(1年)は「自分にはまだ難しい」。4月に初めて動画を見せられて意見を求められ、「分かりません」と苦笑いした。

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 4月に名西高校の監督に就任した上田監督は「監督の言うとおりにプレーする時代ではない。選手自身が考えて、自分なりの答えを見つけることに意味がある」と話す。9年前の那賀高校での1年間の監督経験を通してそう思うようになった。「下半身を使って、腰を回して打て」などと言い続けたが、選手らに力がついた手応えはなかった。一方的な指導では生徒に信用されないと思った。

 定時制の前任校時代、たびたび城北高校で野球部を指導した。その頃始めたのが動画指導だった。「どう思う?」と切り出すことが、選手一人ひとりとのコミュニケーションのきっかけにもなった。

 13日開幕の徳島大会。名西高校は1回戦で池田高校と対戦する。6月下旬、選手たちは左右の実力派投手を想定した打撃練習をしていた。投球マシンの球速は普段より10キロほど速い130キロ台。鋭い打球を飛ばす泰斗君に、上田監督は再びスマホを向けた。

 「何か感じた?」と尋ねられ、泰斗君は自信たっぷりに、「良いフォームですね」。「自画自賛か」。グラウンドに2人の笑い声が響いた。