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 6月、昨秋と今春の島根県大会を連覇した大社高校のグラウンドには、三脚で固定された数台のビデオカメラが設置されていた。打撃練習用のネット裏や、投球練習するバッテリーの背後から、かけ声を上げながら練習に励む選手たちを撮影する。

 「撮影した練習の動画をインターネット上でいつでも見られるようにしています」。2018年12月にできた「ICT(情報通信技術)担当」の古藤臣(おみ)君(2年)はそう話す。古藤君を含め2人のICT担当を中心に、打撃や投球、守備練習の様子を撮影した動画を、大社高校の選手と指導者だけが見られるオンライン上にアップする。選手たちは、自身のフォームや守備の連係、試合内容をいつでもスマートフォンで確認できる。山崎大輝主将(3年)は「動画で見ないと分からないことがたくさんある。みな活用しています」と語る。

 さらに、集めたデータを試合に生かすのが、3人の選手からなる「戦術担当」だ。対戦相手校の試合動画を見ながら、パソコンに入っている専用のソフトで相手投手や打者の特徴を分析。結果はオンラインでチーム全体で共有する。石飛守監督(40)は「相手に応じた戦い方を考える上で大きな武器になる」と話す。

 大社高校がICTにかじを切ったのは、石飛監督が同高に赴任して野球部長に就いた18年4月から。さらに石飛監督は、この年の6月に高校間の垣根を越えて野球を学ぶ「大社野球協議会」を発足させるなど、新たな取り組みを次々と展開する。

 協議会は、県外の高校の指導者を招いて、打撃指導の技術や打力の高いチームづくりの方法などを学ぶ講座を開いたり、敏捷(びんしょう)性や瞬発力などスポーツにおける効率的な身体の動かし方を普及・教育する「日本SAQ協会」による走り方を勉強する講座を開催したりする。講座の様子は動画で撮影しており、選手たちはいつでもオンラインで確認して復習できるようになっているという。

 大社高校などを会場に、県内の高校の野球指導者や選手、保護者らが参加できる。高校生は無料。18年6月~19年2月に計7回の講座を開いた。

 ライバル校も顔をそろえる。春の県大会の決勝で大社と対戦した三刀屋高校は、複数回協議会の講座に参加。国分健監督(41)は「ライバル意識があり、別の高校と合同で野球を学ぶ機会は今までなかった。情報交換を通じ県内の野球のレベルアップにつながる取り組みだ」。主将の布野陽平君(3年)は、「理論立てて野球について学べるので勉強になる。また、他校の選手たちと交流できる機会で、野球に向き合う姿勢についても学ぶことが多かった」と話す。

 協議会設立について、石飛監督は「東京や大阪では多くの講座が開かれ、指導者や選手は最新の野球理論を学べるが、島根はそういう環境が整っていない」と指摘。チームの枠を超えて参加者を募ることで、個々の費用負担を小さくして講座を開催することができるといい、「チーム同士で切磋琢磨(せっさたくま)することで、島根の野球全体のレベルアップにつながる」と期待する。

 石飛監督の新たな取り組みの背景には、大社高校のみならず、県内で野球に励むすべての選手たちに、上達するためのより良い環境を提供したいという思いがある。

 この春、室内練習場の壁に大きなステッカーが貼られた。そこには――

 「新取の精神~常に最先端を行く!」。早稲田大学の建学の精神の一つ「進取の精神」を元に、石飛監督がつくった造語だ。

 石飛監督は言う。「いつまでも『昭和の野球』を続けていてはいけない。野球の指導者として、常に新しい知識や経験を選手に与えていきたい」(浪間新太)