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 積もった雪の上で、長靴を履いた球児がノックを受ける。捕球し、投げた先は校長室。画面が次々と切り替わって雑貨屋やホテル、すし屋、ガソリンスタンド……。地域の人たちがつないだ白球は、雪が解けた校庭で待つ選手の元へ。

 秋田県北東部、鹿角(かづの)市にある県立校の十和田の野球部が3月、ツイッターで1分42秒の動画を発信した。再生回数は2万7千回を超えた。ツイッター開設と動画制作を提案したのは、就任3年目の神居恵悟監督(24)だ。きっかけは昨夏の甲子園で準優勝した金足農(秋田)。活躍に地元は沸いた。神居監督は「地域と一体になれば大きな力が生まれる。町おこしになるのでは」と考えた。

 甲子園に春夏通算24回出場の秋田と、横浜国立大の野球部でプレーした。希望して高校野球の監督になったが、部員の少なさを言い訳にしている自分に気付いた。

 十和田の生徒数は169人。ピーク時の1985年度と比べ4分の1になった。同時期に野球部員は47人いたが、昨夏の秋田大会で2回戦敗退後、選手4人になった。

 昨秋から選手と週1回の個人面談を繰り返し、できることを探した。練習や体力強化に加え、地域とつながることを目指した。ビニールハウスでの練習の様子を動画で発信したり、雪かきを手伝ったり。市内のホテルで働く阿部加智子さん(49)は「『部員少ないの?』とまちでも話題になる。ツイッターや彼らの活動で、野球部への関心は高まっている」。

 4月、新入生8人が加わった。その一人、安保蓮君は「いい意味で色々なことに手を出していて楽しそうだと思った」と入部した。翌月の地区予選。斉藤蓮主将(3年)は人生で初の本塁打を放った。結果が伴えばもっと地元に元気を与えられると考える。「ツイッターを始めて声をかけられることが多くなった」と話す。

 人口減少が加速する地方では、チームスポーツを町の活力の軸に据えようとする動きが各地である。高知県西部の梼原(ゆすはら)町には、全国から視察が絶えない。

 町内唯一の高校、梼原の野球部は2017年夏に高知大会で準優勝。決勝戦には町民700人が訪れた。

 13日、町から車で約2時間の高知市営球場であった今夏の高知大会の初戦にも町民約100人が訪れた。その一人、掛橋芳男さん(77)は、練習も、高知市内での試合も応援にいくという。「野球部の子は町ですれ違ってもあいさつしてくれる。一生懸命プレーする姿に力をもらっている」。「応援ありがとうございました」。勝利後の選手の一礼に、拍手を送った。徳弘恵人主将(3年)は「試合中も町の人の『頑張れ』という声が耳に入り、力になる。町の人と一緒に甲子園に行きたい」と話す。

 標高1千メートル級の山に囲まれた人口3400人、高齢化率が約44%の町で、野球部の練習球や打撃用マシンは全て町民らでつくる後援会が寄付した。練習するのは両翼100メートル、夜間照明完備の黒土の町営グラウンド。現在生徒127人中39人が野球部員だ。うち33人が町外出身者で、町は県の補助金などを得て6億円かけて新たに町営寄宿施設を建てる予定だ。

 高校は廃校の危機にあった。06年の入学者は17人。当時は2年連続で新入生が20人を切ると統廃合の対象となった。野球部がないと他校を選んだ地元の子もいたことから、当時の校長が野球同好会を結成。翌年部にした。

 部設立に野球好きの町民も盛り上がった。町民から約800万円の寄付が集まり、バットやネットなど初期設備を買った。「野球部を軸に地域活性化できるのでは」と、07年の選抜大会で室戸(高知)を8強入りに導いた町出身の横川恒雄監督(66)に何度もラブコール。引退を考えていた監督を3年かけて説得した。

 「故郷のためになるのなら」と定年退職を機に13年に就任した横川監督は、少年野球教室や草むしり、町のイベントのボランティア参加などで、部員が地域に溶け込むことを目指した。「地域から支えを受けるには、生徒たちから地域に関わっていって、『この子の成長を見たい』と思えるようにしないかん」。

 町長や町商工会長、地元の建設会社の社長らと月1回集まり、野球部の未来について語り、町や住民が支援を重ねてきた。悲願の甲子園まであと一歩。商工会会長の長山和幸さん(57)は「野球部のおかげで夢ができて、町が元気になった。もはや生きがい」。京都から父の出身地に来た吉村拓輝君(1年)は「色々な人が支えてくれる。恩返ししたい」。

 吉田尚人町長は「梼原の躍進は、町民の熱意、横川監督の指導方針、町の支援のすべてがうまくかみあったから」と話す。

 気になるのは今後だ。町の人口はさらに減少することが予想される。横川監督が退いた室戸は部員が激減し、今夏は4校連合で参加した。横川監督は「自分も年だが、梼原の監督を辞められない」と苦笑する。地域と一体になって部員を育てられる後継者も育成中だ。(辻健治、森岡みづほ)

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プロ野球DeNA初代球団社長でスポーツビジネス改革実践家の池田純さんの話

 スポーツは人の集まる場をつくる力があり、地域の「元気玉」になり得る。スポーツをきっかけに人も呼べて、健康寿命を保つこともできる。根付かせるのは大変だが、高校野球にはその土壌がある。ただ、ファンは高齢化しているように思う。今は他の娯楽がたくさんあってスポーツを見る習慣がない人が多い。次の世代にも受け入れられるためには、様々な層との接点をつくらないといけない。地域の人がゆるくスポーツできる場所をつくったり、興味がない人の心にも響くものを結びつけて引きつけたりする努力も必要だ。

 どの競技でも、関係者ではなくお客さんがどう楽しむか、社会が何を求めているかを軸に考えることが大切だ。本当の文化になるには、時代が求めるものを読んで進化し続けないといけない。