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 昼休みのチャイムが鳴った。長野県・屋代の野球部マネジャー塚原涼月(すずき、2年)は真っ先にグラウンド脇の物置小屋に向かうと、炊飯にとりかかった。自称「塚原食堂」のおにぎりの下準備。「米が変わって、なんだかさらさらしてるなあ」。ぼやきながら研ぎ終えると、近くで集まっていた選手たちと合流。一息ついて、弁当箱のふたを開けた。

 練習日には、もう一人のマネジャー大井真琴(まこ、2年)と1・8升分のおにぎりを握る。炊くのは塚原の担当。放課後の練習中に補食として出すため、昼休みは食事より炊飯が優先だ。

 おにぎりは他校も含めて野球部の「定番」。だが、塚原食堂は一風変わっている。味付けは選手たちが自分で塩を振る「セルフサービス」。好みの塩加減で食べられることと、「手間を省くため」だ。でも、サボっているわけではない。マネジャーが2人しかいない中、少しでも効率を上げるための塚原のアイデアだ。

 塚原自身、小中学校時代は野球に明け暮れていた。中3では主将も務めた。だが常に人数不足に悩み、中学最後の年は「1年間で1度しか勝てなかった」。厳しい練習を積んでも勝てない。正直、飽き飽きしていた。ただ、もともとは大の野球好き。そこで誘われて入った高校野球部で希望したのがマネジャーだった。

 入部時、マネジャーは3年生3人と、塚原と大井の計5人。3年生が引退した昨夏以降は2人になった。

 「自分の強みは選手としての経験。チームのために生かしたい」。そう考えた塚原は昨冬、打率など選手データの改良に着手した。安打を長短打に分けることなどを通じて、長所や弱点を即座に把握できるよう、選手の気持ちで整理した。

 キャッチボールやノックの相手も積極的に務めた。ノックの打ち手は監督不在時によく頼まれ、選手の特徴に応じて打ち分ける。おにぎりも昨夏の3年生引退後は手が回らずに数カ月中断したが、選手側の要望を受けた塚原らが、やはり練習には必要だと判断し、再開した。塚原は言う。「自分の中学時代、マネジャーはいなかった。存在する以上、選手がなるべく練習に集中できるように心がけています」

 取り組みはチーム内で好評だ。おにぎりは毎回、ほぼ「売り切れ」状態。選手データはその後、監督の手でより改善されたが、塚原の分についてもコーチは「練習の計画が立てやすくなった」。今大会エースの永原拓実(2年)は、普段からキャッチボールの相手に塚原を選んでおり、「本気のボールを受けて投げ返せるのは、選手経験者の塚原でないと」と言う。

 昨秋と今春の県大会。同校はいずれも地区予選で敗退。今大会はベスト8を目標に掲げる。

 塚原の視線も、自分なりの活躍の場に向いている。

 昼休み。弁当をかきこんだ塚原はすっと立ち上がると、ネットに向かってひとり、ノックの練習を始めた。「いつかユニホームを着て、公式戦の前にノックを打つのが僕の夢。自分にしかできない何かを提供する。そして、チームに貢献したいんです」=敬称略