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 視界がにじみはじめたのは、先発の中島雄大君が三振で二つめのアウトを取った頃だった気がする。6月、奈良高専との記念試合の一回裏、奈良県大和高田市の高田商業の守備。遊撃手の三戸浩輝(ひろき)君はグラウンドでスタンドの下級生、ベンチにいる3年生の声援を聞いていた。

 このメンバーで野球をするのは最後だな――。気づいたら、号泣していた。「三戸ー、早すぎるやろ!」。ベンチに戻ると、みんなが笑いながら肩を抱いた。二回表の攻撃も、ベンチで泣きながら声援を送った。

 涙もろいのは、小さい頃からだ。小学生の時は、スタメンに入れなくて泣いた。中学校でも、試合に負けては泣いた。最近も、映画「ボヘミアン・ラプソディ」を見て泣いた。

 けど、高校に入って野球で泣くのは、自分の記憶では初めてだ。

     ◇

 アカペラ部に入りたくて、高田商を選んだ。しかし、中学時代の硬式野球チームで一緒だった中島威吹君、米本爽祐(そうすけ)君、坂口瑠飛(りゅうひ)君、殿村彰人(あきと)君と一緒に野球部の見学に行くと、楽しそうに見えた。「5人で一緒に高校でもやろう」。そう言われると、「自分もやろうかな」。足はグラウンドに向かった。

 2年生の9月、歌に専念したいという気持ちが大きくなった。野球をしていても、なんだか楽しくない。赤坂誠治監督(42)に伝えると、「一回待て」と言われた。何回も伝えるうちに「お前が決めろ」に変わった。

 それでも踏ん切りがつかなくて、中途半端に野球をしていた頃、赤坂監督に呼ばれ、聞かれた。「誰のために野球やってるんや」

 家族や友達を喜ばせるのが好きだ。そのために野球をやっているんだと思えば、自分も楽しいんじゃないか。すっと心が決まった。もう一度、野球が楽しくなった。

     ◇

 4―2、2点リードで迎えた最終回の攻撃。打席が回ってきた。

 「中途半端なスイングすんなよー」

 「お前しかおらん」

 ベンチからの声援を背に、いつも通りにしようと自分に言い聞かせた。緊張で足が震えた。内角高めの直球を思い切りたたいた。三戸君はこの試合で初めてのヒットに、二塁でガッツポーズをした。

 試合後、涙はでなかった。代わりにあふれたのは、野球を小学校から続けてきた達成感だった。

 「11年間で、一番楽しかった」