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 6月下旬、県銚子(千葉県銚子市)のグラウンド。「丁寧に」「声出せ!」。9人の野球部員たちの声が響いた。

 ただ一人のマネジャー山崎莉緒(りお)さん(2年)は、練習する選手たちに声をかけた。「もっと声出して」

 思えば、春はばらばらだった。少しはいいチームになったかな。

     ◇

 「先生、休部させてください」

 4月下旬の夜、体育教官室。山崎さんは大野友也(ともなり)監督(24)に伝えた。理由を尋ねられ、答えた。「私はチームに必要なのか、自信がなくなりました。少し考えさせてください」。3日後から部活を休んだ。

 きっかけは春の県大会地区予選。初戦の相手は、秋に0対10で六回コールド負けした千葉黎明。雪辱を果たすつもりだったが、0対15の五回コールド。差は広がった。夜、家に帰ってから悔しくて涙が出た。冬にやってきた意味はあったのだろうか――

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 中学時代はバスケットボール部。けがもあり、高校では「新しいことに挑戦しよう」と考えていた。野球部の練習を見に行き、マネジャーとして入部した。

 2007年に女子校から共学校になったばかりで、野球部員は少ない。ほかのチームに助っ人を頼むことも多く、練習試合でも一勝が遠かった。リードしても逆転された。

 チームは試合で負けていると、声が減って雰囲気が暗くなる。好機で三振した選手、守備でミスした選手……。下を向いてベンチに戻ってくる仲間に、どう声をかければいいのか。野球の知識も足りない。いつも何も言えなかった。

 ただ、選手に少し不満もあった。練習中、笑いながらボール拾いをしたり、メニューの合間に歩いていたり。「ダラダラしているから勝てないんじゃない」。つい怒ったこともある。

 私にできることはないだろうか。部長に提案され、昨秋から、練習後に食べるおにぎりを作り始めた。パワーを強化してほしくて。

 保護者と部長から寄贈された炊飯器二つを使い、練習後、一人2個ずつのおにぎりを握った。

 ノックの球出し、外野のボール拾い……。部員が少ない分、いろんなことをこなした。でも、ひと冬を越えても結果が出なかった。

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 献身的なマネジャーの「休部宣言」に、選手たちは驚いた。

 「おれたち、変わるから」。遊撃手の田宮海晴(みはる)君(2年)は休み時間、山崎さんに謝った。

 中途半端なプレーをしていた自覚はある。やる気がないと思われたまま、辞めてほしくなかった。

 中学は野球部の主将で、強豪校から声をかけられていた。調理師という目標のため県銚子に進学。野球の技術はあったが、泥臭いプレーはあまりしなかった。

 山崎さんは2日間、部活を休んで復帰した。

 田宮君は打球を捕ろうと飛び込むようになった。「一つのプレーをもっと真剣にしなければ勝てない」。チームでミスが続いても「切り替えろ」と声を切らさない。

 チームは負けていても雰囲気が悪くなることは少なくなった。連敗続きだった練習試合は5月以降、勝てるように。大野監督は言う。「なんとなく野球をしていた選手たちが、どうしたら勝てるかを真剣に考えるようになった」

 山崎さんはいま、選手に助言できるよう野球の本を読んでいる。「少しでも力になれればいいなって。それにベンチで何も言えないのはつらいから」

 あの休部から奮起したチームがこの夏、まず1勝を目指す。「人数は少ないけど、勝ちたい」