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 4月。生物室に集まった40人以上の部員の前で、宮城県名取北の江川公詩君と大友優君、村上絢弥君の3年生3人が、部員たちの前で寸劇を始めた。

 「村上さん、あなたは疲れたとき、どんなものを食べますか?」と大友君。村上君は「僕は甘いものがいいかなと思って、お菓子を食べますね」。そこで江川君が「カーツッ! 疲れたときにはクエン酸です。お菓子ばっかり食べてはいけません」とつっこんだ。

 テレビ番組をまねして「喝」を入れる軽妙なやりとりに部員たちは笑ったが、これは遊びではない。強豪校に対抗するための秘策、名付けて「食トレ」だ。

 名取北が体作りに力を入れるようになったのは3年前。けがや体調不良で練習を見学する部員が多いのに榊良輔監督が気づいた。練習が特別に厳しいわけではない。そもそも野球にふさわしい体ができていないのではないかと、筋力トレーニングに比重を置くように練習内容を改めた。

 「卒業後も役に立つから」と、2年前からは食事について大学の運動部のトレーナーに学び始めた。さらに部員に自主性を持たせるため、上級生が下級生に講習する形へ切り替えた。

 当初の講師役は持ち回りで、昨年11月に初めて担当した江川君らがコント仕立てにして好評を博すると、いつしか3人が「食トレ担当」になった。「話しても、聞いてくれなければ意味がないから」と3人は口をそろえる。トレーナーに学んだことをベースに、インターネットで調べた知識も加える。

 江川君には、体力面で苦い経験がある。昨年夏の初戦は二塁手で出場し、八回表まで2点差でリードしながら逆転負けした。「暑さで気持ちが緩んだ。体力の大切さを痛感した」。相手との差を繰り返し考えた。練習場所や時間はどうしようもない。でも強豪校はいい体をしている。「これなら自分たちにもできる。勝つならここだ。食トレだ」と改めて実感した。

 冬は部全体で体作りに取り組んだ。3食に加えて練習前後にもおにぎりなどを食べるのを徹底した。体重を増やすのに効率がいいのは、麺や米などの炭水化物。疲れたときは、クエン酸や糖分のバランスがいい果汁100%のオレンジジュースを飲む。おなかがすいてコンビニに行ったら、お菓子や炭酸飲料よりも、おにぎりやオレンジジュースを選ぶように努めた。

 並行して筋力トレーニングも自分たちで工夫した。各学年に1人ずつ「パンプアップリーダー」を置き、デキる運動部員の証しとして「除脂肪体重60キロ以上」を設定。ベンチ入りメンバーで達成したのは、昨秋には3、4人だったが、今では10人以上がクリアした。打線のパワーが増し、練習中に体調を崩す選手もほとんどいなくなった。

 3人は選手として最後の夏に挑む。初戦は15日午前11時半プレーボール。大友君は「今年も暑い日の戦いになると思う。18人の3年生全員が納得して引退できるようにしたい」。地道な食トレの成果を、グラウンドでぶつけるつもりだ。(申知仁)