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香取慎吾とゆくパラロード

 朝日新聞パラリンピック・スペシャルナビゲーターの香取慎吾さんがさまざまなパラ競技に挑戦する「慎吾とゆくパラロード」。7回目は、視覚障害者柔道(パラ柔道)に挑戦しました。目をつぶったまま男子73キロ級の永井崇匡選手(24)と組み合い、この競技ならではの奥深さと「一本」のキレを体感しました。(榊原一生)

紙面でも
香取慎吾さんのパラ柔道体験は、7月26日付朝刊スポーツ面の「慎吾とゆくパラロード」でも、1ページを使って紹介します。

 香取さんは静かに目を閉じた。審判に腕を引かれて、対戦する全盲の若き柔道家、永井選手と場内へ。

 《ああ、もう怖い。》

 見えないこと自体が恐怖心を生む。永井選手から直前に教わった五輪の柔道との違いを思い返していた。

 《選手同士が離れてしまうと互いの居場所が分からなくなるので、組手争いはせず、袖と襟を組んだ状態で始めます。》

 すぐに技のかけ合いが始まり、数秒で勝負が決まることもある、という。

 さらに、永井選手はこうも言った。

 《組み合った時にたくさんの情報を把握します。襟を触りながら、相手の背の高さや体の太さ。僕はともえ投げが得意なので、腰の高さも知りたい。重心の位置も確かめています。》

 畳の中央で永井選手と組み合った香取さんは、言われたようにまず相手を探ろうとした。

 《襟と袖の部分だけでしか相手を感じられない。足元は全く分からない。》

 戸惑っていると、試合開始のかけ声が聞こえた。

 永井選手は香取さんの体を左右に振ったり、引っ張ったり。香取さんは、練習で学んだ「大腰」という投げ技を繰り出す間もなく、畳に倒された。

 「一本!」

 永井選手は笑顔だ。

 《足の動きも相手の道着をつかむ手で把握します。ひじも当てれば相手に接する面積が大きくなり、より動きを知れます。》

 香取さんは息を切らしながら答えた。

 《永井さんは僕の全体図が見えているんだね。ただ、実際にやってみると、相手に触れられているので恐怖が和らぎ、どう倒そうか考えることもできた。》

 競技は体重別の階級はあるが、障害の程度による区別がない。このため、弱視の選手と比べて全盲の選手は不利とされる。

「この人は負けない」

 それでも、永井選手には強みがある。

 《僕は2歳で見えなくなり、小学生の時、柔道を始めた。相手は健常者。不利な状態ではあったけど、相手の動きや息づかいに感覚を研ぎ澄ませてきた。いい経験になっています。》

 香取さんが言った。

 《目の見える選手にも勝っていたんだから、見えない選手に負けないよね。》

 永井選手が苦笑する。

 《でも、なめていました。》

 高校1年の時に初めて視覚障害者の全国大会に出たが、決勝はわずか17秒で一本負け。鼻をへし折られたという。

 《永井さんの気持ちはすごく分かります。》

 香取さんも自らの経験を語り始めた。

 《ライブを始めてどんどん会場が大きくなっていったけれど、14歳の時、幕が開いたらお客さんが少なかった。僕らが右に移動するとファンの皆さんも右へ。左に行くと左へ。勢いでやっていけると思っていたけれど、今後を考えるきっかけになった。》

 ロンドン、リオデジャネイロと2大会連続でパラリンピックに出られなかった永井選手にとって、来年の東京大会への思いは強い。

 《ただ負けたくないだけ。勝つことを当たり前にしないと弱さが出る。》

 香取さんがうなずいた。

 《この人は負けない、という心の強さを感じた。東京ではどうやって勝つのか見たい。応援に行って勝っても僕は喜びませんよ。勝利が当然なんで。》

     ◇

 永井崇匡(ながい・たかまさ) 1995年、群馬県出身。小学1年で競技を始め、2016年の全日本視覚障害者柔道73キロ級で2連覇を達成。昨秋のアジアパラ大会では銅メダルを獲得した。数学教師を志し、2年間の浪人生活を経て入学した学習院大理学部を今春卒業し、現在は学習院大職員。