シリーズ:眠る
朝だるい、呼吸障害の可能性も 筋強直性ジストロフィー
【アピタル+】患者を生きる・眠る「筋ジストロフィー」(筋強直性ジストロフィー)
様々な合併症を引き起こす難病の「筋強直性ジストロフィー」。呼吸筋力の低下などによる呼吸障害は、睡眠にも大きな影響を及ぼします。どのような病気で、どういった点に注意すべきか。大阪刀根山医療センター(大阪府豊中市)の松村剛・脳神経内科部長(55)に聞きました。
遺伝性の難病、合併症に注意を
――筋強直性ジストロフィーとは?
難病である筋ジストロフィーの一つで、この中では、患者数が最も多い遺伝性の病気です。日本では、人口10万人当たり10人ほどいると推測されていますが、症状が軽い人は病院へ行かないこともあり、もっといる可能性があります。原因は、遺伝子の特定の場所にある塩基の変化です。塩基が繰り返される回数は、健康な人は多くて35回ほどですが、この病気の人はそれ以上に伸び、多いと数千回になることもあります。普通はすぐに止まる筋肉の興奮が、この病気では、長く続くようになります。このため、ぐっと握った手がなかなか開かない、しゃべり出した時に舌が回りにくいといった症状が出ます。
――治療法は?
今のところ、根本的な治療法は確立していません。一方で、呼吸障害や不整脈、嚥下(えんげ)障害、糖尿病、甲状腺機能障害、白内障など多種多様な合併症がみられます。若くして白内障になった場合には、そこからこの病気であることがわかることもあります。この病気との関連をふまえて治療をしていくことが重要です。
睡眠不足? 睡眠薬ではなく人工呼吸器を
――呼吸障害は、どうして生じるのでしょうか?
肺の周りにある呼吸筋力の低下と、酸素の量を正常に保とうとする脳による呼吸の調整機能がうまくいかなくなることの二つの原因が考えられています。このため、肺活量が正常でも酸素の値が低くなり、呼吸不全になることがあります。神経や筋肉の病気では、一般的には、肺活量が半分以下にならないと呼吸不全にはならないとされているので、見逃されやすい点です。寝ている時に無呼吸になり、酸素量が下がることもあります。いずれも自覚症状からわかることは少なく、検査をしないとわかりません。
また、朝起きた時に頭が痛い、体がだるいなどの症状があっても、夜更かししたためかなどと考え、筋強直性ジストロフィーのせいだと思わない人も多いです。この病気のため、夜中に無呼吸になったり酸素が低くなったりしてこれらの症状が出ていることも少なくありません。睡眠不足だと思い、睡眠薬をのむのは危険です。無呼吸の症状がある人が睡眠薬をのむと、無呼吸を悪化させかねません。症状を改善させるためには、人工呼吸器をつけるといった対応が必要です。
――人工呼吸器をつける際の注意は
換気の回数や量、送り込む圧などは、それぞれの患者に合わせて医師が設定します。吐く力だけでなく、吸う力も弱まっているため、呼気と吸気の圧をそれぞれ設定するなど、きめ細かな調整が必要です。呼吸の状態は時間の経過とともに変化するので、1年に1回は検査と調整をします。寝ている時に口が開いてしまう人がいるのは、あごの筋力が弱くなっているためです。そのような人には、鼻と口を覆う「フルフェイス」のマスクを勧めます。ただ、顔の全面を覆うことになり、不快感も高まります。鼻マスクの方が楽だという人は、呼吸が維持できればそちらを選んでもよいです。いずれにしても、マスクをつけ続けることが大切です。低酸素状態になっているということは、全身の臓器に相当な負担をかけていることになります。一般的に睡眠時無呼吸がある人は、高血圧や心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞、糖尿病になりやすいことが知られています。そうしたリスクを下げ、全身の状態をよい状態に保つことにつながります。
――他に注意すべきことは?
かぜをひいた時も単なるかぜだとみくびらないで、早い段階で病院に来てほしい。筋強直性ジストロフィーの方はもともと酸素濃度が低いことが多いので、感染によりさらに低くなると危険な状態に陥りやすい。さらにのみ込む力(嚥下(えんげ))の問題があり、せきをする力も弱いので、たんが絡みやすく出しにくいので、かぜをこじらせやすいのです。たんがのどに詰まってしまうこともあり得ます。それらが重なり最悪の場合には、命を落としかねません。そうなる前に人工呼吸器を導入できれば、防げる可能性が高まります。
定期的に全身の検査受けて
――この病気とともに生きていく上で大切なことは?
合併症のほとんどは患者さんが自覚しない間に出てきて、進んでいきます。定期的に全身の検査をし、チェックしていってもらいたいと思います。不整脈は、突然死につながることもあります。海外では、不整脈への対応として埋め込み型除細動器を装着することが珍しくありません。ただ国内では、コストの面や患者がつけることに積極的ではない傾向があることなどから、あまり進んでいません。
また、筋肉の病気では、血液検査でクレアチンキナーゼ(CK)の値をみておくことも重要です。CKは、筋肉の中に多い酵素で、普通は大きな分子なので血液中に出てきませんが、筋肉が壊れると血中に出てきます。筋肉の能力を超えた負荷をかけてしまうと、どんどん壊れていってしまうので、CKを定期的に測定することで、筋肉に無理をかけていないかを知ることができます。特に進学や就職をした時など、大きな環境変化があった前後にはCKの値をみて、体に負荷がかかっていないかを確認しておくとよいでしょう。
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)へ。
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