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 三章 楼蘭

                 一五一三年三月

 

  その一 ゾロアスターの神の鳥

 

 今をさること四二五年前。わたし、楼蘭王の娘マリアは十八歳に、弟ウルスは十六歳になりました。

 二人が夫婦となり、ウルスが王位を継ぐことが、正式に決まりました。この年、楼蘭では大掛かりな式典が催されることになりました。ウルスは戦士としてもすでに名を成しており、式典は国を挙げての祝賀行事になる予定でした。

 楼蘭王国はまさに栄華を極めていました。西から東から、荷物を積んだ隊商が旅するシルクロード。我が楼蘭こそ、その物流の拠点でした。商人に水や食糧、寝床を提供する他、商品を売買する大バザールも主催していました。そのせいで、明(当時の中国の大国)が楼蘭を狙っているという噂(うわさ)がありましたが、実際に敵軍が現れることなどなく、日々は平和なものでした。

 王国に寄り添うロプノールは、不思議な湖でした。タリム河の流れによってときどき場所を移すのですが、楼蘭からそう遠くに離れることはなく、おかげでずっと豊かな暮らしを送れたのです。

 さて、婚礼の式典を明日に控えた夜のこと。これがすべての発端であるのですが、わたしはウルスとつまらないことで口喧嘩(げんか)をしました。弟が剣仲間の青年ワナントと親しげに話し、ふざけて剣をぶつけあうのを見て、やきもちを焼いたのです。ちょっとした言い合いのはずが、お互い引かず、大喧嘩になり、ワナントが間に入って止めたほどでした。結局どちらも謝らず、相手につまらない怒りを抱いたまま翌日を迎えてしまいました。

 式典は素晴らしく豪華でした。拝火教の神殿に赤々と松明(たいまつ)が燃えていました。王宮の庭は、火でできた花、炎のカーテン、星のように飛び散る火など、燃えて動く火の芸術で溢(あふ)れていました。シルクロードの東西からやってきたご馳走(ちそう)、酒、果物が所狭しと並び、きらびやかな衣装を着た踊り子が舞い踊っています。その間にも、音を立てて城門が開いては、様々な民族の隊商の列が入ってきます。ラクダの背に乗せた贈り物を、玉座に座るウルスとわたしに捧げるために。豪華な絨毯(じゅうたん)、玉、香辛料、酒……。玉座の前には貢物が山と積まれました。

 夜になり、炎はますます赤々と燃え盛りました。また城門が開き、見慣れない風貌(ふうぼう)の隊商がぞろぞろ入ってきました。わたしは、おやっと思いました。彼らが引いてきた、高さ十メートルほどもある木彫りのラクダに目を奪われました。

 警備の兵士が、これは何だ、と見咎(とが)めましたが、ウルスは「面白い。受け取っておけ」とほろ酔いでうなずきました。木彫りのラクダは貢物の山の横に置かれ、城門が音を立てて閉まりました。式典は続きました。

 やがて夜も更け、楼蘭の民は、…

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