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 わたしは楼蘭王国を飛びだし、中国東北地方の長春を目指しました。一九一六年から一九三八年まで、二十二年の年月を暮らしたはずの町です。

 旅の途中で確認すると、今は一九三一年とのことでした。どうやら、楼蘭王国が再び現れるたび、外の世界の時間は少し進むようです。なぜかはわたしにはわかりません。

 ようやく長春に着き、我が家を目指しました。でもそこには別の家族が長く住んでいるとのことでした。子供たちが通う学校にも行きましたが、そんな子たちはいないと言われました。子供や夫の名を呼び、歩き続け、わたしは疲れ果てました。それから夫の職場へ。確かにその人が働いていると聞き、住所をもとに、彼の家を訪ねました。

 すると、夫だった人は別の女性と所帯を持ち、別の子供と暮らしていました。今の彼にとっては、わたしは見覚えのない十八歳の女です。不審がられ、わたしは急いでその家を後にしました。

 長春の街角で物乞いをし、毎日「ウルス、アナーヒタ……ザムヤード、ワナント……ミスラ……アタル……ヴァーユ……」と子供たちを探し回りました。

 時間が巻き戻り、歴史が変わり、わたしの子供たちは生まれていない……世界に存在していない……そんなことを受け入れられる人間がいるでしょうか?

 そうして一カ月ほどが経った九月十八日のこと。とつぜん町の様子が変わりました。日本の軍隊が押し寄せてまたたくまに長春を制圧してしまったのです。

 “九一八(満州事変)”です。

 以前の……三回目の世界では、こんなことは起こりませんでした。七年後の一九三八年まで、みんな平和に暮らしていたのに……?

 やはり、毎回歴史が変わっているのです。

 わたしは戦時下となった長春を抜け出し、旅をして楼蘭王国に帰りました。王国は、わたしが留守の間も同じ日を繰り返していました。そういうわけで、もとの永遠の一日の輪にわたしは戻ったのです。

 でも……今度はちっとも幸福ではありませんでした。

 外の世界でささやかな家庭を作り、歳(とし)をとる経験をした後では、ここは、ここは……過去の死者の都でした。

 わたしは悲しみ、落ちこむあまり、また弟のウルスと喧嘩(けんか)してしまう日までありました。

 いつかまた犬山がきたら、今度…

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