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 夏の高校野球が101回目を迎えた今年、賛否が大きく分かれる議論がスタートした。日本高校野球連盟が投手の投球数制限の是非などについて意見を求めるため、「投手の障害予防に関する有識者会議」を設置したのだ。

 反対派から多く聞かれるのが、「例えば投手の球数を1試合100球に制限したら、相手の投球数を増やすため、わざとファウルを打つ練習をする」という指摘だ。

 「明らかにスポーツマンシップにもとる作戦」と語るアジア野球連盟審判長の小山克仁(57)には苦い記憶がある。

 2013年夏の甲子園大会で、ファウル打ちの技術と選球眼を武器に活躍する選手がいた。準々決勝では7球連続を含む15球をファウルにし、1人で相手投手に41球も投げさせて4四球を選んだ。

 この試合で球審をしていたのが小山だった。

 過去にも同じようなことがあった。1972年夏の甲子園大会に「ファウル打ちの名手」と話題になっていた選手が出場した。その選手が最初の打席で2球ファウルを打つと、球審の郷司(ごうし)裕(ひろし)が「もっとフォロースイングしないと、バントとみなす」と注意した。

 このやりとりをきっかけに議論が進み、高校野球特別規則に次の項目ができた。「自分の好む投球を待つために、打者が意識的にファウルにするような、いわゆる“カット打法”は、そのときの打者の動作(バットをスイングしたか否か)により、審判員がバントと判断する場合もある」

 この議論に参加した永野元玄(もとはる)(83)は「フェアプレー精神に基づく項目」と説明する。実際に92年春の甲子園大会で永野が球審として、カット打法をバントとみなし、スリーバント失敗で三振を宣告している。「野球の歴史をさかのぼれば、ストライクは『打て』のコール。それなのにファウルを打ち続けるのはフェアじゃない」

 2013年夏の甲子園でも、ファウル打ちを続ける選手に、球審の小山は「前に打て!」と何度も忠告した。バントという判断は下さなかったが、試合後に大会本部から「次の試合ではバントと見なすこともある」とチームに伝えることになった。「この選手は小柄だが、打撃力が高かった。四球を狙ったり、投手を疲れさせたりするのでなく、正々堂々と勝負して欲しかった」と小山は残念がる。

 その3年後、小山は約30年間に及ぶ審判生活に区切りをつけ、国際協力機構(JICA)のシニアボランティアスタッフとして、スリランカなどで野球の普及活動に従事した。アフリカ東部のタンザニアでは、初めて試合したチームが見事に勝利する場面に立ち会った。選手たちは試合後、相手チームに「また一緒に野球をしよう」と声をかけ、両チームの選手がキャッチボールを始めた。

 「相手を尊重し、楽しくプレーする。野球の素晴らしさ、原点を見た思いだった」と小山は言う。

=敬称略(編集委員・安藤嘉浩