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 本格的な夏山シーズンを迎え、北アルプスの登山口としても知られる国際的な山岳観光地の上高地(長野県松本市)は、大勢の登山客でにぎわっています。人気スポットの河童(かっぱ)橋は、槍(やり)・穂高連峰への出発点です。山頂を目指す登山者は、平坦(へいたん)な遊歩道を約11キロ歩き、明神経由で槍ケ岳と穂高連峰の分岐の横尾を目指します。私事で恐縮ですが、約40年前、登山を始めた大学時代から、単調と思えるこの道は時に30キロ近い重荷を背負い、汗を流し、歯を食いしばって耐える「苦行の道」でした。それが今では……。

 上高地の登山シーズン到来を告げるウェストン祭が開かれた6月2日。環境省が所管する上高地ビジターセンターに午前9時から、双眼鏡を持った11人が集まりました。その中に、クリストファー・ハーマンさん(50)、妻シェリーさん(50)、長女アデレードさん(16)の米国人一家の姿もありました。

 同センターが企画した「春のバードウォッチング」。明神までの往復約7キロ、5時間半のコースです。増加する外国人向けに今回、初めて通訳がついたのです。

 ガイドは、自然公園財団上高地支部スタッフの前田篤史さん(47)。上高地でガイド歴20年以上のベテランが開始早々、「日本三鳴鳥」のオオルリを見つけ、素早く望遠鏡をセットしました。「カラマツのてっぺんです。白いおなかと背中の青が特徴で、ふだん声がしてもなかなか姿が見えません」。前田さんのわかりやすい解説に、参加者たちはさっそく双眼鏡でオオルリを探しました。

 ハーマンさん一家がこの企画に参加したのは、上高地西糸屋山荘にメールで宿泊予約をしたのがきっかけです。返信の中に「通訳同行で外国人も参加できます」との一文があり、以前からバードウォッチングに興味があったシェリーさんが即決しました。

 イベント後、シェリーさんは「夫は病理学者でふだん顕微鏡ばかりのぞいているから、『鳥を見つけるのは簡単』と豪語していました」と笑いました。ハーマンさんは「参加して明らかに僕の意識が変わりました。鳥の鳴き声にもっと耳を傾けようと思います」と、感想を述べました。

 同センターには、前田さんのように上高地の自然に詳しいスタッフが常駐し、毎日午前9時から1回、自然観察会(ガイドウォーク)を実施されています。予約不要で誰でも参加でき、参加費は500円(保険料を含む)と格安です。

 ガイドウォークは、1人しか参加者がいなくても実施します。6月上旬、熊本市から訪れた一二三(ひふみ)篤子さん(66)は1人だけの参加でしたが、前田さんと一緒に歩きながら大学時代以来の上高地の自然を満喫しました。

 ガイドウォークは、鳥だけでなく、植物や上高地の自然、歴史などについても解説します。河童橋近くの小梨平では、地名となった小梨が、上高地に生息するニホンザルの大好きな赤い実をつけることを聞きました。また、昨冬の上高地は小雪で、シナノザサが直接酷寒の冷気にさらされて広範囲に枯れてしまったことなども知り、一二三さんは「目からうろこが落ちる感じ」と感激していました。バードウォッチング歴2年といい、「ミソサザイを初めて観察できました」と満足げでした。

 上高地では、五千尺ホテル上高地やホテル白樺(しらかば)荘などでも、ガイドが案内する自然観察ツアーを実施しており、ここ数年、人気が高まっています。同センターは1970年、上高地自然教室(ビジターセンター)が開所された当時から自然観察会を始めており、上高地では老舗的な存在です。

 前田さんは、ミズバショウの群落で知られる尾瀬の山小屋で働いた経験があります。「上高地は尾瀬と似たところがあります。しかし、上高地は、3千メートル級の穂高連峰と清流梓川の、『動かない山と流れのある川』という、静と動の調和が素晴らしいのです」とその魅力を語ってくれました。

 また、「『昔はバリバリの登山者でひたすら歩くだけの道が、こんなに花が多いことに驚いた』という高齢者が多いのです」と、参加者の意外な反応も教えてくれました。その言葉を聞いて、まるで自分のことを言い当てられたような気分になりました。これからは苦行をやめて、自然を満喫しようと思います。

 山頂目指す登山と違って、自然観察ツアーは体への負担が少なく、心身ともにリフレッシュできます。また、上高地は標高1500メートルの高地でもあり、ウォーキングをするだけでも心肺機能を高める効果があります。この夏、皆さんもぜひ、穂高連峰を間近に眺められる上高地で、自然観察ツアーを体験することをお薦めします。

<アピタル:近藤幸夫の山へ行こう・健康と安全>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/climb/(近藤幸夫)

近藤幸夫

近藤幸夫(こんどう・ゆきお) 朝日新聞山岳専門記者

1959年。岐阜市生まれ。信州大学農学部卒。86年、朝日新聞入社。初任地の富山支局で、北アルプスを中心に山岳取材をスタート。88年から運動部(現スポーツ部)に配属され、南極や北極、ヒマラヤで海外取材を多数経験。2012年から日本登山医学会の認定山岳医講習会の講師を務める。現松本支局長兼山岳専門記者。

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