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 長崎県との県境にある佐賀県太良町。午後4時を過ぎると、仕事を終えた母親たちが子どもたちを迎えに保育園にやって来た。

 園児約120人のうち、町内で生まれた子どもはいない。町内には出産ができる産科がないからだ。

 3歳の長女を迎えに来た看護師の女性(24)は2人目を妊娠中。車で約40分かかる白石町内の産科で産む予定という。「緊急で診てもらいたいときもある。町にかかりつけの産科があればいいのに」とこぼす。

 2人の子どもを持つパート従業員の女性(33)は、1年前に福岡県久留米市から夫婦の出身地の太良に戻って来た。「地元で子育てしたいと思って帰ってきたけど、医療機関がたくさんある久留米とは大違い。これほど不便だとは思っていなかった」と漏らした。

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 厚生労働省は今年、医師の数が地域のニーズに見合っているかを示す「医師偏在指標」を公表した。その指標をもとにすると、佐賀県は医師が多い都道府県順で全国13位と上位に入った。

 ただ、産科に限ると全国平均を下回り、44位に沈む。さらに全国を約280、佐賀県内を5地域に分けた「医療圏」で見ると、①佐賀市を中心とする中部=117位②唐津市など北部=222位③鳥栖市など東部=241位④伊万里市など西部=250位⑤太良町を含む鹿島市など南部=253位。偏在は明らかだ。

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 政府は6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)の中で、「医師偏在指標を活用し、実効性のある地域及び診療科の医師偏在対策を推進する」としている。

 お産特有の不規則な勤務や訴訟リスクなどから、敬遠されがちという産科。県は医師確保に向け、産科などを目指す学生と研修医を対象にした修学資金の貸与制度を用意している。また、佐賀大と長崎大の医学部の推薦入試に「佐賀県枠」などを設け、同様の貸与制度を利用できるようにしている。

 ただ、日本専門医機構(東京都)によると、後期研修医の診療科選択で、今年度、県内の産婦人科を選んだのはゼロだった。

 太良町で3人の子どもを育てながら保育士をしている女性(44)は「車で産科に向かう途中に出産してしまう友人もいた。生活環境は大好きだけど、医療はあきらめるしかないのでしょうか。母親たちは皆、安心して子どもを産み、子育てがしたいと思っている」と嘆いた。(平塚学)