ブラジルで「フェミタクシー」というスマホアプリの利用が広がっている。利用登録できるのは運転手も客も女性。車内で2人だけになっても互いに安心できると人気だ。背景には、女性であることを理由にした殺人「フェミサイド(女性殺し)」の横行がある。(サンパウロ=岡田玄)
アプリが大当たり
きっかけは女友達の一言だったという。「タクシーの男性運転手の態度が、私一人の時と恋人が一緒にいる時で違う」
そこで女性専用タクシーアプリの開発を始めたのがサンパウロ在住のフランス人、シャルル・アンリさん(29)。「女性客と女性運転手をつなぐアプリがあれば安心して乗れるのではないか」。2016年12月に「フェミタクシー」を発表した。登録できるのは女性だけ。客は写真登録が必要で、運転手には身分証明書の写しを出してもらう。
当初、対象地域はサンパウロ市だけだったが、評判を呼び、今は周辺の州にサービスを拡大している。女性運転手7千人が登録し、利用客は10万人ほど。同様のサービスを提供する会社も出てきて、運転手が足りない状況になっている。
アプリを利用するカミラ・デアビラさん(24)は、南東部ベロオリゾンテで16年からタクシーを運転している。
大学生だった15年、タクシー運転手の父が急死。家計を支えるため、父が残した車で仕事を始めた。時間の融通が利くため、学業と両立できた。
昼間だけ運転するなど気をつけたが、狭い車内で男性と2人きりになるのは怖い。17年1月、運転手仲間から「フェミタクシー」を聞き、登録した。
それでも流しで男性客を拾うことがある。ある日、助手席に座った男性の腰に銃が見えた。勇気を振り絞り、「あなたを乗せられない」と言うと、何も言わずに降りた。危害は加えられなかったが、見知らぬ人を乗せる怖さが身にしみた。
南部クリチバで14年、女性タクシー運転手が客に性的暴行をされ、殺害された。逮捕された男は以前に客として3回乗り、機会をうかがっていたと供述した。昨年は女性客が男性運転手に性的暴行をされる事件も各地で起きた。
これらは氷山の一角とみられている。世論調査会社「ダタフォーリャ」などが今年2月に実施した調査で、性的暴行などの被害があった女性の52%が通報や相談をしなかったと答えていたからだ。
■広く受け入れられる男性至上…

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