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 名古屋市北区の自宅で2016年、中学受験を控えた小学6年生の長男(当時12)を刺殺したとして、殺人罪に問われた父親の佐竹憲吾被告(51)の裁判員裁判の判決が19日、名古屋地裁であった。斎藤千恵裁判長は「鋭利な包丁を強い力で深く突き刺しており、犯行態様は危険」として懲役13年(求刑懲役16年)を言い渡した。

 裁判では、殺意の有無が争点の一つになった。検察側は、佐竹被告は「殺意をもって長男の胸を包丁で刺した」と主張。これに対し弁護側は「刃物を見せて怖がらせ、(受験勉強の)態度を改めさせようとした。殺すつもりもなかった」として殺意を否定。傷害致死罪にあたると訴えていた。

 判決は、傷の状況などから殺意はあったと認定。その上で、斎藤裁判長は「中学受験の指導の名の下、長男の気持ちを顧みることなく自分の指導・指示に従うよう独善的な行為をエスカレートさせたあげく、衝動的に犯行に及んだ」と非難。「父親によって命を奪われた長男の驚きや苦痛は察するにあまりある」と述べた。

 判決によると、中学受験を控えた長男に対し、日頃から受験指導の時に刃物を示すなどしていた佐竹被告は16年8月21日朝、長男の態度にいら立ち、胸を包丁(刃渡り約18・5センチ)で1回刺し、殺害した。

 この日、佐竹被告は紺色のスーツに青色のネクタイ姿で出廷。裁判長が判決を読み上げる間、前を向き表情を変えなかった。最後に裁判長に「分かりましたか」と問われると、「はい」と答えて退廷した。

 判決後、裁判員や補充裁判員ら男女6人が記者会見に応じた。補充裁判員の1人は3年前に事件が起きた時に「『なんて親だ』と思った」と振り返り、「裁判では被告の心情、行動を冷静に公平に理解することが一番難しかった」と話した。別の裁判員は「一生懸命になりすぎた形。誰にでも起こることではと思った」と話した。

 受験をめぐる特異な事件について、裁判員の1人は「親として子を手にかけることが理解できず、こんな事件がなぜ起こるのかと悩んだ。とても難しかった」と心情を打ち明けた。(大野晴香、村上潤治)

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 名古屋市北区で2016年、中学受験の準備中だった長男(当時12)を殺したとして、殺人の罪に問われた父親の佐竹憲吾被告(51)に対し、名古屋地裁が19日に言い渡した判決の要旨は次の通り。裁判では、殺意の有無と被告の責任能力が争点となった。

罪となるべき事実

 被告は、中学受験を控えた長男に対して、日頃から受験指導の際に刃物を示すなどしていたところ、長男の態度などにいらだちを募らせたあげく、2016年8月21日午前9時50分ごろ、被告方において、長男に対し殺意を持ってその胸部を包丁で1回突き刺し、失血死させて殺害した。

殺意の有無

 長男の胸部右側に深さ約9センチの刺切創があり、被告の鋭利な包丁で生じたと認められる。強い力で一気に刺入されたと認められる。

犯行に至る経緯

 被告は長男の中学受験のため、勉強を教える際に声を荒らげたり、たたいたりすることがあったが、小5の冬ごろからカッターナイフを向けて威圧するようになった。小6の夏にはペティナイフを見せつけたり、机や教科書に刃を立てたりするようになった。長男の右前額部付近に包丁の刃をあて、頭髪が一部そぎ落とされたこともあった。犯行2日前から前日にかけ、長男を車で連れ出し、勉強態度などについて説教し、足に浅い切り傷を負わせた。

 包丁が偶然刺さった可能性や長男が自分で胸部を刺突した可能性は考えがたい。経緯をあわせみれば犯行当日の朝、長男の態度にいらだちを募らせていったあげくに激高し、胸部を突き刺したことが合理的に推認される。

責任能力について

 被告の精神鑑定をした医師は、犯行当時、被告が精神障害に罹患(りかん)していた事実はなく、犯行時の記憶がない点については、自己防衛のために解離性健忘が生じたと説明している。

 別の医師は自閉スペクトラム症に罹患し、解離性障害を発症して人格によるコントロールが困難になっていた可能性があると供述するが、根拠として挙げる事由は、精神障害がない者にも見受けられるものが多いなど、合理性が乏しい。完全責任能力があったものと認められる。

量刑の理由

 父親によって命を奪われた長男の驚き、苦痛、一人息子を突然奪われた母親の悲しみ、嘆きは察するにあまりある。

 中学受験の指導の名の下、長男の気持ちを顧みることなく、暴力的な言動から刃物へ、ナイフから包丁へ、やがては包丁を長男の身体にあてるなど独善的な行為をエスカレートさせていったあげく、衝動的に犯行に及んだものと認められる。

 子に対する殺人の事案としては非常に重い事案というべきで、被告が犯行直後に長男を病院へ運び込んだことなども考慮して、主文の刑に処することとした。