ハンカチ握り祈った 亡きマネと共に戦った球児たちの夏
全国高校野球選手権埼玉大会は21日、4回戦8試合があり16強が出そろった。山村国際がBシードの東農大三を3―2で破った。春の関東大会4強の山村学園は立教新座に競り勝った。花咲徳栄は秀明英光にコールド勝ち。22日は試合がなく、8強をかけた5回戦8試合は23日、県営大宮、市営大宮、上尾市民の3球場で行われる。
マネージャーに祈り、打った 八潮南・金井悠政選手
「打たせてくれ」。六回の好機に代打を任された八潮南の金井悠政選手(3年)は、一枚のハンカチを握りしめ、祈った。
思っていたのは、元マネジャーの児玉由惟さん。1年生だった2017年10月、自転車で登校中にトラックにはねられ亡くなった。16歳。「由惟さんのために勝ち上がる」。同級生だった今の3年生はその思いを込め、大会に臨んだ。
ハンカチは由惟さんの葬儀で母の千穂さん(46)が部員に配ったものだ。「最後の夏を一緒に戦う」。3年生全員がポケットにハンカチを忍ばせ、帽子の裏に由惟さんの名を書いた。ベンチには由惟さんの遺影と体操服があった。
金井君の打席は所沢商に7点をリードされた六回1死二、三塁。スタンドで、好機に流すと決めていた人気ロックバンド「WANIMA」の曲を下級生たちが合唱していた。由惟さんが携帯電話の着信音にしていた曲だ。
金井君は3球目を右前に運び、コールド負けを阻止する2点適時打に。この瞬間、スタンドの千穂さんが友人と抱き合い泣き崩れた。由惟さんを亡くしてからは野球に関わらないでいたが、この夏は初めて球場に足を運んだ。「部員の頑張りが伝わりました。娘が愛されていたとわかって、うれしかったです」
試合後、加藤大晟主将(3年)は「力をもらえた。児玉が生きられなかった未来を生きている。だから、強く生きなくては」と語った。引退する3年生が、由惟さんの遺影といっしょに記念撮影していた。(山口啓太)
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