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(21日、高校野球秋田大会 秋田中央5―4明桜)

 明桜・加藤洋平主将(3年)の中に、焦りの気持ちは間違いなくあった。打撃では打率4割を超え、主力を務めるが、敬遠が続いた。七回にだめ押しの4点目を加点され、ベンチ内の空気もよどみ始めていた。しかし、加藤主将は常に笑顔を忘れなかった。

 迎えた八回。明桜に2死満塁の好機が訪れた。加藤主将は打席へ向かう土居涼太選手(3年)に近づき、ポケットから黒ずんだメダルを取り出し渡した。昨夏、金足農に決勝で敗れたときの銀メダルだ。「ホームラン打ってこい」。笑って背中をたたいた。

 土居選手が同点となる適時三塁打を放った。「ほんま野球おもろいわあ!」。加藤主将は心の声を思わず口に出していた。高校野球の「ドラマ」を感じ、心が震えた。

 誰よりも悔しい思いを抱え、この夏に挑んだ選手だった。昨夏、2年生で唯一のレギュラー入り。決勝で金足農に敗れてから、練習中はいつもポケットにこのメダルをいれていた。

 「簡単に届きそうで届かない存在」。甲子園をそう形容する。この試合中も、何度か目を閉じ心を落ち着かせる場面があった。「去年の先輩の分も」。目を開けると仲間に笑いかけた。

 同点で迎えた十一回裏、秋田中央のサヨナラ勝ちが決まった瞬間、加藤主将はその場に立ち尽くした。「甲子園は遠い」。そう思った。しかし、目の光は消えていなかった。「簡単に夢は見られない。けど、楽しんでできたから。野球が楽しいと、心から思えた。特に悔いはないっす」。目を赤くして笑った。(林瞬)