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 安倍晋三首相は宿願の憲法改正について、選挙戦で「議論する政党か、しない政党か」と問い、自衛隊の9条明記も繰り返し訴えた。憲法にあまりふれなかった過去の国政選挙より踏み込んだのは、民意のお墨付きを得たと主張する布石だろう。

 結果は与党で改選過半数を上回り、国政選挙で6連勝を果たした。今回も安倍政権が信任を得たのは間違いない。

 選挙結果を受けて、首相は任期中の改憲に「挑む」と明言した。改憲議論を加速させていく意思表示だろう。

 ならば、まず省みてみよう。3年前から改憲勢力が衆参で3分の2の議席を占めたにもかかわらず、なぜ改憲の議論が進まなかったのか。野党は首相の前のめり姿勢を警戒し、最近は両院の憲法審査会がほぼ開かれていない。そもそも与党の公明党は、9条改正に一貫して慎重だ。

 改憲の議論は否定しない。だが、野党を議論に巻き込む努力をしないまま、時期を区切るべきではない。3分の2に届かなかったことを機に、丁寧な対話に立ち戻るべきだ。

 同時に、政治が力を注ぐ優先順位も考えてもらいたい。

 選挙を通じて首相は「政治の安定」を訴え、数字を並べて実績を強調した。一方で、都合の悪いことを覆い隠す政権の体質は「老後2千万円」をめぐる金融庁報告書問題でも表れた。

 見せたくないものをテーブルに載せず「安定」を装うのは、選挙戦術だとしてもフェアでない。選挙で争点に浮上した「老後不安」の問題の議論は、すぐにでも始めるべきではないか。前回は6月に公表された5年ごとの年金財政検証も未公表のままだ。国会で不安に向き合う議論をするには、正しい判断材料を示すことが欠かせない。

 与党は国政調査権の活用が不十分な現状を放置せず、野党に歩み寄り、国会の機能回復に取り組むべきだ。言論の府として行政との緊張関係を取り戻さないといけない。その延長線に、憲法審査会で落ち着いて議論できる環境も生まれるだろう。

 そのためにも首相自身が選挙結果にふさわしい度量を見せ、多様な価値観を理解し、都合の悪いことにも向き合って論戦に丁寧に応じてほしい。そして、国会は官邸の下請けと揶揄(やゆ)される状況をただすべきだ。(政治部長・栗原健太郎)