「帰って来る」言い残して 75年ぶり帰郷の旗に父の字
武運長久を祈り寄せ書きされた日章旗を身につけ、出征した旧日本兵。中国で戦死した父親が身につけていたその旗が、約75年ぶりに長野県駒ケ根市の長女櫛田正子さん(80)ら遺族の元に帰ってきた。「うれしい。ただうれしい」。正子さんは、かすかに残る父の記憶をたぐり寄せた。
駒ケ根市役所で22日、返還式があり、正子さんと妹の伊藤幸子さん(78)らが出席。正子さんらは日章旗を手に取り、「軽いねえ」と言いながら感触を確かめた。わずかな汚れはあるものの、絹の旗はきれいな状態を保っていた。
父正一さんは終戦間際の1945年8月13日、中国北部で戦死した。家を訪ねてくれた戦友が「馬をかばったばっかりに頭に銃弾を受けた」と教えてくれたという。36歳だった。
米カリフォルニア州のデイビナ・パロンさんが、元米兵の祖父の遺品を整理していてこの旗を見つけた。入手した経緯はわからないが、旧日本兵の日章旗返還に取り組む団体に託し、日本遺族会や長野県・駒ケ根市遺族会の協力で持ち主にたどり着いた。
パロンさんは遺族に宛てた手紙に「その旗が何か大切な歴史の断片を表していると感じ、大事に保管していました」と記している。正子さんは「感謝しかありません」と話す。
父の出征時は「5歳ぐらいだった」という正子さん。「おまえが学校に上がるころには帰って来るでな」と言われたことは、覚えている。旗の「櫛田正一」は本人が書いたとみられ、「お父さんの字なのかな」と思いをはせた。(松下和彦)
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。