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 いつ訪れるか分からない親や配偶者ら身近な人の死。悲しみに暮れる間もなく、葬儀、納骨、相続手続きと、やるべきことが次々とあります。これでいいのだろうか? ほかの人はどうしているのだろう? 戸惑いや不安に駆られることも多いかもしれません。家族が亡くなったあとの相続や遺言などのこと、みなさんと一緒に考えていきます。

遺産 引き出しやすく

 相続のルールが約40年ぶりに大きく変わりました。昨年の民法改正で、高齢化社会の実情に合わせて故人の配偶者を優遇する仕組みが取り入れられました。家族のあり方が多様化するなか、遺言の活用を促す制度も設けられました。

 民法は家族が亡くなった時、故人の遺産をどう引き継ぐかの基本的なルールを定めています。故人が遺言を残していれば原則としてその内容通りに遺産が分配されます。ただ、遺言があっても、配偶者らは最低限の取り分(遺留分)は保障されます。一方、遺言がない場合は民法で定められた遺産を引き継ぐ人(法定相続人)と遺産の取り分(法定相続分)のルールに従って分けられます。ただ、法定相続人同士による話し合い「遺産分割協議」によって取り分を調整できます。

 1980年の改正では核家族の増加などに合わせ、配偶者の法定相続分の引き上げなどがなされました。

 その後、平均寿命が男女ともに7~8歳程度延びるなどして、社会の少子高齢化が進み、高齢化によって相続が始まる時の配偶者の年齢が高くなる一方、少子化によって遺産分割における1人の子どもの取り分も増えました。こうした相続を取りまく社会情勢の変化を踏まえ、約40年ぶりの見直しが行われることになりました。

 昨年7月に成立した改正民法などでは、配偶者の優遇策として、配偶者が自宅に住み続けられるようにする「配偶者居住権」を新設(2020年4月施行)。遺言の活用促進策では、生前に自分で書く「自筆証書遺言」について財産目録をパソコンで作ることが可能になりました(今年1月施行)。

 今月からは、相続人以外の親族でも介護などに尽力した人が相続人に金銭を請求できるほか、相続人は故人の預貯金の一定額を遺産分割前でも引き出せるようになりました。故人の口座は金融機関が亡くなったことを確認した時点で凍結されます。これまでは遺産分割協議がまとまらないと口座から現金を引き出せず、遺族らが生活費や葬儀代に困るケースがありましたが、今後は相続人は家庭裁判所の審判を経ずに預貯金額の3分の1に自らの法定相続分(例えば、配偶者なら2分の1)をかけた額(同じ金融機関では150万円が上限)まで下ろせます。引き出した額は、最終的には自分の相続分から差し引かれることになります。(浦野直樹)

家族葬浸透 費用減る

 葬儀情報サイトなどを運営する「鎌倉新書」が2017年に実施した「第3回お葬式に関する全国調査」によると、葬儀の平均費用は計178万円でした(うち葬儀自体117万円、飲食29万円、返礼品32万円)。13年の第1回は計203万円、15年の第2回は計184万円で、葬儀の費用は減る傾向にあります。

 全国の40歳以上男女が対象のネット調査で、回答数は約2千件。どんな葬儀にしたかの質問では、通夜・告別式を開いて地域や職場の人も参列する「一般葬」が最も多かったものの、前回比6ポイント減の53%。近親者のみなど少人数での「家族葬」は38%でしたが、前回より7ポイント増えました。東京都に限ると家族葬の比率は42%に増えるなど、都市部を中心に人気です。

 家族葬の増加について、同社の小林憲行さんは「10年ほど前から出始めていたが、近年になって世間に浸透してきたのではないか」と言います。また、故人が高齢になるほど参列する関係者も減るため、寿命が延びたことも家族葬など小規模な葬儀の一因のようです。

 返礼品も変化しています。かつての定番はお茶やのりなど長持ちする食品でした。最近はカタログギフトや菓子の詰め合わせがよく使われます。平均32万円の返礼品費を金額帯別にみると、最多は10万円未満で32%。10万~20万円未満25%、20万~40万円未満20%、40万~60万円未満10%と続きます。

 葬儀の変化に伴い、葬祭場も変化しています。葬祭関連企業のニチリョク(東京都)が運営する「ラステル新横浜」は、家族葬中心の葬儀場として人気です。開場以来、利用者は毎年1~2割ほど増えています。(高橋克典)

借金も引き継ぐ可能性

 7月から、葬儀代や遺族の当座の生活費のため、金融機関が凍結した故人の口座から一定額が引き出せる新制度が始まりました。でも、故人に借金があった場合は要注意です。

 民法では例外もありますが、相続人が故人の資産を使うと、相続すると承認したことになり、相続放棄ができなくなります。相続は故人の負の財産も引き継ぎます。

 終活に詳しいさいたま市のファイナンシャルプランナー山田静江さんは、7月からの新制度で、銀行が凍結した故人の口座から葬儀代など向けに一定額を引き出した場合も、「相続放棄できなくなる恐れがある。一度も会ったことのない遠い親類など、資産状況がよく分からない状態での相続では使うべきでないでしょう」と指摘します。「故人の巨額の借金が後々分かることは珍しくありません。相続は借金も引き継ぐので、故人の資産状況がよく分からない間に、相続放棄ができなくなってしまうのは危険です」。車を売ったり、宝飾品をお金に変えたりすると、相続放棄の権利を失いかねません。

 「亡くなる方が葬儀代を用意する場合、ご本人の生命保険金の受取人を葬儀を執り行う人に託すのが最もお勧め」。保険金は相続税こそかかりますが、民法上の相続とは違う扱いなので「安全」だと山田さんは言います。

 故人の資産を使っても、使い道が葬儀なら相続放棄が認められる例はあります。大阪高裁は2002年、死亡した夫の口座を解約した300万円を葬儀や墓石代に使った女性の相続放棄を認める決定をしています。「相続が確定していない段階で、故人に必要な行事のために常識の範囲で使ったお金なので認められた。自分のために使ったら認められなかったはずです」と、東京弁護士会で法改正の対応を担当する弁護士、稲村晃伸さんは言います。

 ただ新制度では、凍結口座から引き出すお金は、相続人に「分割」される遺産の一部になると法律に明記されました。「引き出すことが遺産の取得と同じになるので、相続を承認したとみなされる可能性がある。結論は今後、司法の判断を待つこととなりますが」と指摘します。

 相続放棄出来ず、思わぬ時に借金に見舞われる場合もあります。

 「もしかして借金返さなきゃならないかも」

 埼玉県の50代女性は十数年前、弟の電話に驚きました。数年前に亡くなった母に数百万円の「借金」があったというのです。父の会社が倒産し、保証人だった母の債務が相続人の女性に、という構図でした。

 母の死後、銀行に口座の権利を放棄する書類を出し、相続放棄したつもりでした。ですが、放棄したのはその銀行の口座の権利だけ。相続放棄は、相続があることを知って3カ月以内に、家庭裁判所で手続きする必要があるのです。

 ちょうど娘の中学進学時で、教育費が心配な時期でした。最終的には父親が土地家屋を売り、借金を返しましたが、生きた心地がしなかったそうです。

 「死後はやることが多く、知識がないと手続きは無理。本当に、多くの方に知っていて欲しいです」(長野剛)

生前の準備で負担軽く 相続・終活コンサルタント 明石久美さん

 身内が亡くなると、悲しみでいっぱいの中、決めなければいけないことも次々と出てきます。

 まずは葬儀社選びです。比較しながらゆっくりさがす時間の余裕はありません。葬儀社との打ち合わせでは参列者の人数や葬儀の場所、祭壇や料理の種類などを決めていかなければなりません。菩提(ぼだい)寺がある場合はすぐに連絡が必要です。

 残された家族が困らないよう、生前に訃報(ふほう)の連絡先、遺影用のアルバムの保管場所、菩提寺の情報を家族に伝えておくことは大切です。生前に家族といくつか葬儀社をまわり、どこを利用するかまで決めておくと遺族の負担は大きく減ります。

 最近は家族だけで営む簡素な葬儀を望む方が増えています。身内に負担をかけないようにと、故人が生前に希望するケースが多いです。ただ、家族だけで葬儀をした結果、親族や故人の知人から「私もお別れをしたかった」などと言われ、家族が傷ついたり、親戚関係にひびが入ったりすることもあります。亡くなったことを葬儀後に知った人が次々と訪ねてきて、逆に負担が増える場合もあります。家族だけで済ませず、故人とつきあいのある人にはきちんと声をかけて葬儀に参列してもらう。その方が遺族の負担が軽い場合も多いのです。

 また、費用の問題も忘れてはなりません。故人の預貯金口座は原則的に、遺産分割協議が終わるまで凍結されます。このため、葬儀費用として、遺族を受取人とする生命保険に加入しておくのも一つの方法です。早ければ3日ほどで受け取れます。

 亡くなった人の相続預貯金を、遺産分割前でもおろせる払戻制度が7月から始まりました。ただ、相続人全員の戸籍謄本などの書類が必要で、手続きには一定の時間がかかります。葬儀費用というより、当面の生活費と考えた方がいいでしょう。この制度をむやみに使って故人の預貯金を引き出すと、遺産分割の話し合いをより複雑にしてしまう可能性もあり、注意が必要です。(聞き手・鈴木友里子

介護負担 見合う相続を・義兄夫婦が委任状偽装・手続きに1年近く

 朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 

●きょうだいが均等は疑問

 今の民法では兄弟の均等相続になっているが、それはおかしい。たとえ介護の必要が無くても同居するだけで子供世帯に精神的負担がある。その後に必要な介護、そして葬儀・供養。それだけの負担があるのに、それに見合うだけの相続が無くてはやってられない。均等相続した兄弟はお客様だ。「介護した嫁の寄与分」が認められるようになったが、寄与分にあたる部分が少なすぎる。親が元気でいても同居は苦痛で、それなりの「見守り」はしている。言い方は悪いが元気なうちから親をたらい回しにしたい気分だ。(大阪府・50代女性)

 

●葬儀は残された者のため

 故人の遺志で、病院から火葬場に直接送ったことがある。遺体が焼かれている間、火葬場の待合室で故人をしのぶ食事会をしただけだが、それで十分に故人をしのぶことはできた。葬儀は残された者のためにあることを実感した。死後のトラブルを避けるには、このようにシンプルにするのが良いのだと思う。(東京都・40代男性)

 

●義兄夫婦が委任状を偽装

 義母が亡くなった際、義理兄夫婦は亡き義母の委任状を偽装して預貯金を引き出した。義父と夫には「葬式費用だから」というが、葬儀の費用は義父が出した。いくら引き出したのか教えてもらえないし、もちろん相続書類の作成もない。「長男だから」「父は認知症だから」(もちろん診断は受けてない)といいながら義母の残したものを独り占めする態度に腹が立つが、夫はもめても負けるだけだとあきらめ気味です。味をしめたのか、義父の預貯金を生前贈与するなどと言い出し「名義を替えるだけだから、お父さんのお金には変わりないから」などと説得している。まさか身内の裏切りに遭うとは思いもせず恐ろしい。遺言を作成する必要を感じた。(海外・50代女性)

 

●妻の父に多額の借金

 妻の父親が消費者金融から多額の借金をして亡くなった。当時、生まれたばかりの娘にも相続放棄の手続きをしたことがある。結局、存命だった妻の祖母(当時90歳)に全ての負債を相続させ、祖母を破産させることで片付けた。(東京都・40代男性)

 

●相続手続きに1年近く

 元気に老人ホームで暮らしていた父が2年前に89歳で突然亡くなり、相続手続きに1年近くかかりました。家族思いの父は亡くなる10年前にお寺と契約して、葬儀、納骨堂の永代供養、生前戒名の費用を既に払い込んでいてくれたのは大変助かりました。家族はお寺に電話連絡するだけでお寺専属の葬儀社が葬儀の準備をしてくれました。用意周到な父でしたが遺言は見つからず、公正証書遺言がないかどうか公証人役場で調べてもらいましたが、結局ありませんでした。何回か転職していてそのたびに給与振り込み用の銀行口座を作っていたので、銀行口座の確認と銀行・証券会社の相続手続きが大変でした。遺産分割協議書は自分で作成しました。(東京都・60代男性)

 

●自分の番に備えて保険に

 数年前に母が他界し、こんなにもお金がかかり、しなければならない手続きがこんなにもあるのかと驚きました。将来自分の番が来たら、葬儀代等必要なお金は自分で用意できるよう、保険に入りました。(徳島県・30代女性)

 

●父の再婚相手が浪費家

 実母が亡くなり、実父が再婚してます。再婚相手はとんでもない浪費家で、実父が亡くなったら、遺産関係で泥沼の争いになるのは明白。そうならない為に、今から手を打っておかないといけませんね。(東京都・40代男性)

     ◇

 約40年ぶりに改正された相続法制。残された配偶者への配慮が図られた一方で、事実婚や同性婚のパートナーらは法の適用から外れたままで、多様化する家族のあり方への対応では課題も残りました。

 法律婚以外の人たちへの相続における対応は、他の制度とギャップがあることは否めません。例えば、遺族基礎年金や遺族厚生年金などの社会保障では、内縁の配偶者にも受給資格を認めています。ただ、ギャップを埋めるには法的な課題も少なくありません。

 こうしたなか、遺言が果たす役割はますます重要になります。遺言を残せば、相続人ではない法律婚以外のパートナーにも遺産を与えることができるからです。今後は様々な立場の人が遺言の内容などについて事前に相談できる仕組みを作るなど、より使いやすくする環境を整える必要があります。(浦野直樹)

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