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(25日、高校野球群馬大会 前橋育英7-4桐生第一)

 桐生第一が3点を追う九回表2死。代打の塚越倭斗(やまと、3年)の打球は、二塁手の前へ転がった。一塁めがけて頭から飛び込んだが、アウト。工藤ナイジェル主将(3年)は次打者席で、甲子園を目指した夏が終わる瞬間を迎えた。素振りをしていたバットを置き、両手でヘルメットを外して空を見上げた。その頰に、かすかな笑み。支えてくれたすべての人への感謝が、胸にあふれていた。

 これまで5試合で出塁率は4割超。一番打者として50メートル5・9秒の俊足を生かし、積極的な走塁で勝利に貢献してきた。「とにかく自分の仕事をしなくては」。主将になって、わずか3カ月。短い期間でチームをまとめ、引っ張らなければならないという重圧とも戦っていた。

 新チーム発足間もない昨年8月下旬、創部以来30年以上チームを率いた福田治男監督(当時)が突然解任された。秋の県大会で準優勝して関東大会に進んだものの、1回戦で習志野(千葉)に延長タイブレークの末、敗れた。監督交代の動揺、勝ちきれない弱さ……。春を迎えても士気は上がらなかった。

 工藤が主将を任されたのは今春の県大会期間中の4月。間もなく準決勝で健大高崎に1点差で敗れると、声が上がった。「このままじゃダメだ」。3年生を中心に、チームの空気を変えようという意識が芽生えた。その輪の中心に工藤がいた。3年生が率先して声を出し、ベンチの雰囲気を明るくすることから始めた。自然とチームがまとまり、この夏は全5試合で失策はわずか1。足を使って点を重ね、勝ち進んだ。だが、この日の接戦は勝ちきれなかった。

 「やることは全てやってきた。勝てなかったということ以外には、悔いのない試合だった」。相手校の校歌を聞くうち、いったんは涙があふれた工藤。だが、涙を拭い、誇らしげに前を向いた。(松田果穂)