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 「特発性正常圧水頭症」が「治せる認知症」として注目を集めています。アルツハイマー型認知症などの脳神経変性症とは異なり、水頭症は脳室にたまった髄液による圧迫が原因なので、この髄液を抜けば症状の改善が期待できます。負担の少ない手術に取り組んできた東京共済病院の桑名信匡顧問に課題を聞きました。

 ――長くLPシャントという手術に取り組んでこられました。

 特発性正常圧水頭症に対する原因療法はまだ開発できていませんが、有効な対症療法がシャント術です。主に3タイプあります。髄液を脳室からチューブで腹腔(ふくくう)へ流す「VPシャント術」と、心房に流す「VAシャント術」です。そして、脳ではなく腰の部分の脊髄腔(せきずいくう)から髄液を抜き腹腔に流す「LPシャント術」があります。

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 LPシャントは実は歴史は古く、1989年に考案され、さまざまな取り組みがありましたが、あまり主流にはならなかったようです。私自身はこうした経緯を最初は知らず、1970年の研修医時代にヒントを得ました。背中から針を刺して脊髄の硬膜の外側に薬を入れるときに、少しあやまって深く入れた研修医がいて、多量の脊髄液が勢いよく飛び出してきました。これがきっかけになり、LPシャントに取り組もうと思ったのです。

 VPシャントではやはりまれに出血が起こります。できることなら高齢者には頭にメスを入れないLPシャントをやってあげたい。ただ、過去の脊髄への手術や、脊柱(せきちゅう)管狭窄(きょうさく)症などで適切に脊髄腔から髄液が抜けない方もいるので、2割近くはVPを選ぶことになります。

 ――脳外科にかかって特発性正常圧水頭症と診断されても、シャント術などをすすめられない患者さんもいるようです。

 髄液がたまっているものの脳室の圧力に変化はない正常圧水頭症には2種類あります。くも膜下出血や頭部外傷、髄膜炎などによって起こる二次性のものと、原因となる病気がはっきりしない特発性です。2つの区別がつけにくく混然としていた時代がありました。このため、当時は手術の適応がはっきりとしないまま、安易にシャントがやられていました。

 さらに、当時は髄液を抜く流量を患者の状態に合った量に調節できる圧可変バルブの技術もありませんでした。このため、効果がなかったばかりでなく、髄液を抜きすぎることによる慢性硬膜下血腫を起こすなどの負の歴史がありました。

 機器の改善やガイドラインの整備、エビデンスの確立など、条件が整備され、今では安易な実施は少なくなりました。あくまで一般論ですが、まだ昔のイメージを引きずっている医師も少なくないのではないでしょうか。

 ――特発性正常圧水頭症の症状は、歩行障害、認知障害、排尿障害が主な症状ですが、最近、怒りっぽくなるといったという状態も注目されているようですね。

 怒りが起こりやすくなることを「易怒性(いどせい)」と言います。LPシャントで多くの患者を診るうちに、「怒りっぽくて家族に当たり散らしていたのに、昔のお父さんに戻った」などと感謝されることが多いなと感じました。この病気の症状と特徴として怒りっぽい傾向があり、シャントでの改善が見込めるのではないかと考えています。私たちの最近の集計では2割近くに易怒性の傾向が認められました。科学的な裏付けのために、さらに院内で研究を進めています。

 ――シャントをしても認知機能に大幅な改善が見られる場合と、そうでない場合もあるようです。

 もちろん効果がない場合もあります。ただ、いま使っている認知機能検査は、アルツハイマー型認知症などの患者に向けたもので、水頭症による認知機能について、必ずしもすべて正確に評価できないと考えています。また、最近、注目を集めているのは、アルツハイマー型認知症などとの合併です。この場合、水頭症の治療だけでは効果が見込めない場合があります。いずれにせよ、この病気専用の認知機能テストをつくる必要があると考えます。(聞き手・服部尚