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 夏になると、一段とにぎわう駅がある。栃木と福島を結ぶ野岩鉄道会津鬼怒川線の湯西川温泉駅。標高約600メートルの山あいにある駅舎は「道の駅・湯西川」と同じ建物だ。しかし、駅舎に入ってもホームが見当たらない。切符販売係を務めて13年の鷺谷(さぎや)あけみさん(49)に尋ねると、「地下にあるんです。そこのエレベーターか、57段ある階段を下りて下さい」。こんなやりとりは少なくないという。

 地下9・57メートルのホームは、葛老山トンネル(長さ4250メートル)の一部で、長さ85メートル。薄暗く、ベンチには「結露でぬれていることもあります」との注意書きが張られていた。

 壁の温度計は、午前11時過ぎで25度。電車を待っていると、ひんやりとした風が急にホームに吹き始めた。風で体感温度がさらに下がり、半袖では寒いくらい。鷺谷さんによると、電車がホームに来る合図のようなものという。風を追うように、「ゴー」という音を響かせて電車が入ってきた。電車のヘッドライトでホーム内が明るくなる。

 夏休みを利用し、温泉と涼を求めて東京都江東区から来た中学教諭の大村邦彦さん(47)は「うだるような猛暑の地上に上がるよりは、ホームのベンチでゆったりと涼んでいたい」。まるで天国のような涼み場。観光客が旅行の記念に一言添えていく駅のノートには「ホームが涼しい」という文字が躍っていた。

 野岩鉄道は栃木、福島両県や周辺市町、東武鉄道などが出資する第三セクターとして1986年10月に新藤原―会津高原尾瀬口間の30・7キロで開業した。八つの駅のうち、ホーム全てがトンネル内なのは湯西川温泉駅だけだ。沿線には温泉が多く、「ほっとスパ・ライン」の愛称がある。(梶山天)