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(13日、智弁和歌山7―1明徳義塾)

 「魔曲」と呼ばれる「ジョックロック」がアルプス席に鳴り響く。1点を追う七回、1死一、三塁。智弁和歌山の黒川は、外角の直球を泳ぎながら転がした。

 黒川も、明徳義塾の遊撃手米崎も、同じことを思った。「ゲッツーや」。白球は遊撃手の正面で大きくはね、とっさに反応した米崎のグラブをはじいた。同点の適時内野安打に。この直後、大会記録に並ぶ1イニング3本塁打が生まれた。

 両者の明暗を分けたゴロ。黒川は「野球の神様が見ていてくれたのかな」と振りかえった。中谷仁監督は、「少し相手の勝ちたい気持ちよりも上回ったから」と表現した。「智弁の風が吹いているというか、アルプス席の力ですかね。昨日もジョックロックが流れていたでしょ」とも。

 前日にあった智弁学園と八戸学院光星戦。試合が進むにつれ、走路は荒れていった。智弁学園は6点を追う六回に7得点。逆転の2点二塁打は、この日と同じように遊撃手の前で大きくはねた打球だった。

 黒川たちが言うように、打球が不規則にはねる「イレギュラー」はたまたま起きるのか。智弁和歌山で1年夏から5季連続でショートを任されてきた西川は苦笑いで答えた。「分からないです。でも……」。この日は4本のゴロを受けたが、「一度もイレギュラーはなかったです」。右の手のひらは真っ黒だった。

 智弁和歌山の内野手は守備位置につく前に、荒れた走路を手でならす。できる限りの範囲を、丁寧に。西川は言う。「やれることをやらずに打球がはねたら、後悔するので」

 二塁を守る黒川も同じ。春までは、つばの裏に「手でならし攻めろ」と書いた帽子をかぶり、ノックを受けてきた。試合後、勝利チーム側でインタビューを受ける黒川の右手は、甲子園の黒土にまみれていた。(小俣勇貴