起床時に血圧保てず、睡眠時間が後ろにずれる…治療は?
【アピタル+】患者を生きる・眠る「睡眠相後退症候群」(薬などによる治療)
夏休みなど長期休暇中に昼夜逆転の生活になり、朝起きられなくなり、不登校になる子どもは少なくありません。その背景には、起床時に十分な血圧が保てない「起立性調節障害」や睡眠時間が後ろにずれる「睡眠相後退症候群」といった病気があることが考えられます。筑波大国際統合睡眠医科学研究機構の神林崇(かんばやしたかし)教授(55)に治療法などについて聞きました。
――起立性調節障害とは?
起きた時に十分な血圧が保てない状況になる病気です。めまいを起こしやすくなったり、朝なかなか起きられず、午前中は調子が悪くなったりといった症状があります。治療薬としては、血圧を上げる「ミドドリン塩酸塩」という薬が起立性低血圧で公的医療保険が適用される薬として承認されています。朝夕にのむ必要がありますが、患者さんは朝起きづらいので、薬をのむことが難しい面があり、課題です。
――睡眠相後退症候群とは?
睡眠相(睡眠時間帯)が通常とずれる「概日リズム睡眠障害」の一つです。起立性調節障害と併存していることはよくあります。ヒトは、脳の視交叉(しこうさ)上核(SCN)にある体内時計のおおもとから、個々の細胞に指令を送って約24時間の概日リズムを保っています。通常、SCNは朝から活動が高まり、夜になるにつれて下がっていきます。これと入れ替わるように、脳の松果体(しょうかたい)から、ホルモンの一つのメラトニンが分泌され始め、夜をピークに朝に向けて減ってきます。このサイクルが崩れて、睡眠相が後ろにずれ、遅寝遅起きになる病気です。ただ、年代別でみると、15~25歳では一般的に、後ろにずれる傾向にあることがわかっています。程度の差はありますが、誰にでも起こることです。その後、多くは、30代で早寝早起きに戻っていきます。けれど、昼夜逆転など、激しく睡眠相がずれた状態が続く時には、医療機関で治療を受ける必要があります。
――治療法は?
寝る前にゲームをしたりスマートフォンをいじったりするのをやめたり、朝起きた時には日光を浴びたりして生活のリズムを整えるといった生活指導が治療の第一歩となります。睡眠表の記入も非常に有用です。
――薬物療法は?
国内では、睡眠相後退症候群には、公的医療保険が適用される薬がありません。このため、保険適用外のものを用いた治療となります。寝入りを良くするためには、夕食後にメラトニンを少量のむことが効果があるとされています。「夜が来たよ」というシグナルを体に早く出すことになるとされます。メラトニンは、欧米では、サプリメントや医薬品として認められていますが、国内では現時点で認可されたものがありません。国内では、輸入したサプリメントなどが治療に用いられています。このほか、日本では、不眠症の治療薬としてメラトニン受容体に作動する薬「ラメルテオン」が承認されています。睡眠相後退症候群での保険適用はありませんが、この薬も治療で使われています。不眠症の治療の際には、寝る30分ほど前にのみますが、睡眠相後退症候群では夕食後ぐらいに半錠をのんだ方が効果的であることなど、違いがあるので注意が必要です。
睡眠時間を短くする効果の薬も
――早く目覚めるには?
国内の研究で、抗精神病薬「アリピプラゾール」を微量、夕食後にのむことで、長くなっている睡眠時間を短くする効果があるとの結果が出ています。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/34/4/34_406/_pdf/-char/ja)。この薬も、統合失調症やうつの治療薬としては保険適用されているのですが、睡眠相後退症候群では承認されていません。アリピプラゾールは、のむ量によって作用が変わります。少量では、神経伝達物質ドーパミンを活性化させますが、中等量以上のむと、逆にドーパミンの活動を抑制するようになります。医師の指導のもと、のむ量や時間を慎重に決める必要があります。
――朝起きられなくなった親子にアドバイスを
怠けているということではなくて、これらの病気が背景にあることが考えられます。特に中高生は誰もがなる可能性があります。ただ、放っておくと、そのままの生活リズムが定着してしまい、社会への適応が難しくなってしまいがちです。一度、不登校が長期化すると、学校への復帰も容易ではなくなります。きちんと小児科、精神科などを受診し、生活習慣の改善と薬物治療の両面から治療に取り組んでもらいたいと思います。
◇ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comへお寄せください。
<アピタル:患者を生きる・眠る>
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