「俺が全部とってやる」 宇部鴻城、正捕手の地道な努力

藤牧幸一
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(16日、高校野球 明石商3―2宇部鴻城)

 宇部鴻城(山口)の捕手、山本雄一郎君(3年)は投手陣をもり立てる縁の下の力持ちだ。昨秋の新チーム発足後、先発できないこともあったが、地道な努力で信頼を勝ち取り、正捕手の座をつかんだ。

 16日にあった明石商(兵庫)戦。優勝候補にもあげられる強豪校相手に接戦を演じた。延長十回。1死二、三塁のピンチでチームは満塁策を選んだ。山本君はここで、七回途中から継投した池村健太郎君(同)のもとへ駆け寄った。「おまえが打たれても悔いはないから」

 池村君とは小2のときからバッテリーを組む。「一番いい投球をさせよう」と直球のサイン。その2球目、スクイズを決められた。捕球した池村君がグラブトスし、山本君も体を伸ばし捕球したが判定はセーフ。サヨナラ負けを喫した。

 山本君は山口県防府市出身。保育園のときからプロ野球を見るのが好きで、小1で野球を始めた。翌年には「ミットや防具をつけてみたい」と捕手を志願。中3のとき宇部鴻城の練習を見学し、元気な声が響くグラウンドで野球がしたいと思った。

 背番号をもらったのは1年の秋。以来、ずっとベンチに入った。いずれは自分が正捕手になると思っていた。2年の新人大会で捕逸を連発。秋の大会では後輩に先発マスクを奪われた。春の大会では先発出場したが、肝心な場面で捕逸を連発した。「低めの変化球を投げさせたら捕逸するかも」。次第に配球も弱気になった。その後の練習試合では先発から外れた。「捕手としてやっていくのは無理かも知れない」。別のポジションに転向しようと悩みもした。

 夏の大会まで100日を切った頃、「あと1カ月、本気で頑張ってみよう」と決めた。170センチ73キロ。体が大きいわけでも肩が強いわけでもない。毎朝始発の電車でグラウンドに行き、学校が始まるまでコーチに投げ込んでもらい、捕球練習を何度も繰り返した。通学時間は前回の試合の配球の反省に充てた。家でも、プロ野球や甲子園での投手の配球を何度も繰り返して見て研究した。池村君は山本君について「毎朝の練習で、夏前には後ろにそらさなくなった」と話す。

 山口大会では背番号2をつけた。「俺が全部とってやるから思い切り投げてこい」と投手陣に言えるようになった。三振をとれる池村君、打たせてとる岡田君。それぞれの持ち味をいかした配球でも投手陣をもり立てた。ブルペンで投球練習をするときには配球について話し合って、それぞれのよさを引き出した。

 この日の明石商戦でも、2人の投手をリードし、12安打を打たれながらも3失点に抑えた。低めのワンバウンドになる変化球も体で何度も止めた。尾崎公彦監督は「よく落ち着いて2人のピッチャーをリードしてくれた」と認めた。先発した岡田君は「信頼している」。池村君は「どんな球でも止めてくれると思って投げた。努力家で頼れるキャッチャーで、尊敬している」と口にする。

 試合後、「チームを勝たせてあげられなかった。詰めの甘さがあった」と後悔を口にした山本君。「甲子園の宿舎入りしてから半月、仲間と夢のような時間を過ごさせてもらえた」と涙を拭った。(藤牧幸一)

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