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 第101回全国高校野球選手権大会(朝日新聞社・日本高野連主催、毎日新聞社後援、阪神甲子園球場特別協力)で、履正社(豊中市)は大会第14日の22日、決勝で星稜(石川)を5―3で破った。履正社は春夏通じて悲願の初優勝。初戦から続いた打線の勢いは最後まで止まらず、春に完封負けを喫した大会屈指の好投手をも攻略した。

家族に恩返し 日本一へアーチ 井上広大君

 1点を追う三回表2死一、二塁。履正社の4番井上広大君(3年)に2度目の打席が回ってきた。1打席目はスライダーを見逃し三振。「もう一度、スライダーが来る」。初球、高めのスライダーを強振すると、打球は低いアーチを描いて中堅スタンドへ飛び込んだ。

 星稜エース奥川恭伸君(3年)と初めて対戦したのは今春の選抜大会1回戦。150キロを超える剛球と鋭く変化するスライダーに衝撃を受け、「心が折れた」。4打数無安打2三振。完敗だった。

 野球人生で初めて「かなわない」と思った。その後調子を落とし、打順も6番に落ちた。ずっと追いかけてきたプロ選手になるという夢も投げ出したくなった。野球が嫌いになった。

 「きょうな、ホームラン打ったで」。弟の祝栄(しゅうえい)君(10)とは仲良し兄弟だ。母の貴美さん(50)は女手ひとつで2人を育ててくれた。井上君が練習から帰るのは午後10時すぎ。小5の祝栄君は寝ていることが多いが、時間が合えば野球の話をしたり一緒に素振りをしたりする。

 一緒に素振りをするとき、祝栄君は笑顔で楽しそうにバットを振る。「野球、楽しそうやな」。うらやましいと思った。無邪気にバットを振る姿を見て「野球を楽しむ」という原点に立ち返ろうと思った。そして「自慢のお兄ちゃん」になろうと決めた。

 「奥川君を打って、日本一になる」。毎日の練習でも意識し続けた。「奥川君ならどうする?」。打つタイミングを遅らせてボール球を見極める練習、詰まった時のバットの運び方――。いつも頭の中には、奥川君がいた。そんな日々の研鑽(けんさん)が、甲子園の決勝という舞台で結実した。

 この夏の甲子園で、井上君は3本の本塁打を放った。ホームランボールを母と弟に渡せるのがうれしい。少しは家族に恩返しできただろうか。

 プロ入りを目指し、練習を続けるつもりだ。「これまで僕にかかったお金を全部返して、さらに母に何かプレゼントできたら」。夢はさらに膨らむ。(山田健悟)