【動画】トークイベント「作家LIVE 『火の鳥』と僕たち」=高橋雄大撮影
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イラストレーターの黒田征太郎さん×お笑い芸人の矢部太郎さん対談

 手塚治虫の未完の大作「火の鳥」。作家の桜庭一樹さんが「小説 火の鳥 大地編」として新たな命を吹き込み、朝日新聞土曜別刷りbeや朝日新聞デジタルで連載中だ。挿絵の域を超えた躍動感を作品にもたらしているイラストレーターの黒田征太郎さん(80)と、『大家さんと僕』で手塚治虫文化賞短編賞を受賞したお笑い芸人の矢部太郎さん(42)が、ともに敬愛してやまない手塚治虫の世界、そして「火の鳥」の魅力を語り合った。

 「作家LIVE 『火の鳥』と僕たち」と題し、東京・築地の朝日新聞東京本社読者ホールで19日に開かれたトークイベントで、二人は初めて対談した。

 1939年生まれの黒田さんが手塚作品と出会ったのは8歳のとき。終戦直後の大阪の闇市で「新宝島」を見つけ、「マジックにかかった」と話す。「新宝島」は矢部さんにとっても好きな作品で、黒田さんが受けた「リアルタイムの衝撃」に興味津々だ。

 主人公の少年ピート君が乗った車のタイヤが長円形に、背景の木が後方に曲がるように描かれていたことを、黒田さんはスケッチを交えて解説。「『すごい走っとるな!』と。手塚治虫さんは俺の前に現れた神様」。学校の先生には写真のように絵を描けと言われたが、手塚作品を見て、「自分で思ったように描いていい」と感じたのだという。「まずは自分。それをピート君が僕に教えてくれたんじゃないかな」

 一方、77年生まれの矢部さんは、手塚作品を「神様の教典として読み始めた」。藤子不二雄や大友克洋など、好きだった漫画家がインタビューでこぞって手塚の名前を挙げていたことがきっかけだった。「どんな漫画を書いてる人も、みんな言う。すごいぞってことで読んで、やっぱり衝撃を受けた」。ファンクラブにも入っていたという。

 そんな矢部さんが、「本当に大好きで、繰り返し、一番読んでると思う」というのが、「火の鳥」だ。中学生だった矢部さんは、そのスケールの大きさに引きつけられたという。「僕は友達もあまりいなくて悩みがあったけど、そういったことがちっぽけに見えた」

 「戦争を繰り返すことの空しさが、過去と未来を往復しながら俯瞰(ふかん)で描かれる物語で、より浮き上がってくる。今回の桜庭さんの作品にも、そのテーマはある」と矢部さん。

 「小説 火の鳥 大地編」は、手塚が残した日中戦争期を舞台にした構想メモをもとに、桜庭一樹さんが書き進めている。

 矢部さんが注目したのは、漫画でもおなじみの猿田博士が、火の鳥の力を兵器の開発に利用しようともくろむ場面だ。「すごく新しい、2019年の『火の鳥』が始まったなという感じが出ている。今も続きがすごく読みたいです」

 絵を担当する黒田さんは、「何かに描かされている感じがするんです」と話す。「小説 火の鳥 大地編」のために、すでに150枚を超す絵を描いている。「(連載は)まだ17回目なのに……」と驚く矢部さんに、「僕は桜庭さんのストーリーに出てくるやつらの中の一員だと思っている」と語った。

 「(今回の挿絵とは別に)黒田の『火の鳥』シリーズも作りたい」と宣言した黒田さんが「矢部さんも」と水を向けると、「矢部の『火の鳥』ですか? すごい地味そうですね」と矢部さんは照れ笑い。会場も笑いに包まれた。(滝沢文那