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 愛知県豊明市で、母親(当時38)と3人の子どもが殺害された事件から9日で15年が経った。発生当時なら公訴時効となる年月が流れたが、法制度が変わり捜査は継続される。ただ、街頭でビラ配りを続けてきた遺族は、記憶の風化に危機感を覚えている。

 「未解決の事件です。どうかよろしくお願いします」

 9日夕、名鉄前後駅(豊明市)の改札前。殺害された加藤利代さんの姉、天海としさん(57)は捜査員らとともに、事件の情報提供を呼びかけるビラを配った。一家の命日に合わせて、毎年続けている。

 街頭に立つと事件の風化を肌で感じる。ビラを受け取らない人は年々増えている。当時の捜査員らは異動で去り、特に信頼していた人も今春、退職した。

 事件から15年。当時の法制度なら公訴時効を迎えるはずだったが、2010年に改正刑事訴訟法が施行されて時効がなくなった。

 天海さんは、殺人事件の被害者遺族でつくる「宙(そら)の会」に入り、公訴時効の撤廃を目指してきた一人。犯人の逃げ得を許さない環境は整ったものの、肝心の捜査は難航している。「ずっと足踏みをしているような感じがする」というのが正直な思いだ。

 支えは、事件を忘れずにいてくれる人たちの思いだ。今年1月、豊明市で開いたパネル展で亡くなったおいや、めいの元同級生から「忘れたことはないです」「一刻も早く捕まって欲しい」と声をかけられた。自分たちの子どもを連れてくる若者も、ここ数年増えている。「里奈たちが成長して大人になり、子どもを抱っこしている姿を、お友達を通じて想像できるようになったんです。うれしい」

 宝物も増えた。自宅の仏壇に小さな石がある。殺害された正悟君が幼稚園の時にタイムカプセルに詰めたもので、5年前、献花式で卒園生の母親から手渡された。「冷たいはずなのに不思議と温かい。正悟のぬくもりを感じる」

 事件で人生は一変し、誰でも犯罪被害者になり得ることを痛感した。「私だってこんな生き方をするなんて思っていなかった。誰かがもし同じような状況に陥っても、困らないようにしたい。私が知らない人にも、私のような思いをして生きて欲しくない」

 今、宙の会の仲間とともに国による「代執行制度」の実現に力を入れている。加害者を訴えた民事訴訟で勝訴しても、経済的な理由などで賠償金の支払いが見込めないケースがある。経済面で被害者を救済するため、国が賠償を一時的に肩代わりし、その後加害者から回収するような制度が必要だと思う。「誰かのために生きる姿を4人もどこかで喜んでいるはず」。天海さんは信じている。

求む情報提供 愛知署・北川淳署長「あの夜に起きたこと思い出して」

 県警は愛知署に殺人・放火事件として特別捜査本部を設置し、15年間でのべ約4万2千人の捜査員を投入してきた。寄せられた情報提供は141件で、ここ数年は年間10件ほど。今年は8月末現在で8件だった。

 北川淳署長は「未解決のまま15年を迎えたことを重く、深く受け止めている。事件が深夜・未明に起きているため、有力な目撃証言が出ていない。解決に向け、あの夜に起きたことを思い出して連絡してほしい」と話した。

 情報提供は愛知署特別捜査本部(0561・39・0110)へ。(柏樹利弘、田中恭太)

豊明母子4人殺害事件

 2004年9月9日午前4時25分ごろ、愛知県豊明市沓掛町の加藤博人さん方から出火し、住宅が全焼。焼け跡から妻の利代さん(当時38)、長男佑基君(同15)、長女里奈さん(同13)、次男正悟君(同9)が遺体で見つかった。利代さんと里奈さんは背中や頭など十数カ所を刃物で何度も刺されており、佑基君と正悟君には、ともに頭頂部に細長く陥没した傷痕があった。一方、通帳類が残され、預金が不自然に引き出された形跡はなかったという。このほか、室内からは灯油が検出された。