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 戦時中の徴用工の戦後補償裁判に関わってきた弁護士6人が共著で「徴用工裁判と日韓請求権協定―韓国大法院判決を読み解く」(現代人文社)を出版した。日韓関係が悪化する中、「被害者救済のための課題を冷静に考える情報の提供」を目的に書かれた。

 日韓関係は、韓国大法院(最高裁)が昨年10月に韓国人元徴用工に賠償するよう日本企業に命じる判決を出したことをきっかけに両国政府間の対立が激化している。本は、日韓での戦後補償裁判の経緯、戦時中の強制動員の状況、日韓請求権協定の解釈の変遷を紹介し、解決策の考察などを盛り込む。

 日本と韓国は1965年の国交正常化に伴い、日韓請求権協定を締結。両国とその国民の間の請求権の問題は「完全かつ最終的に解決された」と記された。

 今回の本では、日本政府がこの文言について、自国民の損害について相手国の責任を追及する「外交保護権」の放棄で、個人が直接賠償を求める権利(個人請求権)の消滅を意味しないと解釈していたことを紹介。日本政府は2000年ごろまで裁判でも「請求権協定で解決済み」と主張しなかったが、重要な争点で国や企業に不利な判断が出始めると「個人請求権は消滅していないが、請求権協定で日本国内の訴訟では行使できなくなった」と、解釈を変えたことも指摘している。

 共著者の一人、愛知県弁護士会所属の青木有加さん(37)は、90年代以降、日本で争われた裁判について執筆した。「名古屋三菱女子勤労挺身(ていしん)隊訴訟」では、07年5月の名古屋高裁判決を紹介。訴えは退けられたが、判決は当時10代前半の少女だった原告らの動員について「脅迫などによる強制連行で、過酷で自由を奪われた労働は強制労働である」と認めた。青木さんは「被害事実は日本の裁判所も認定している。人権救済が出発点だ」と話す。

 日本の最高裁は07年の中国人強制連行訴訟の判決で、「個人請求権は裁判で請求できないことにするのが、サンフランシスコ講和条約の枠組み」と判断し、日韓請求権協定の解釈にも適用されるようになった。しかし、同じ判決で「個人の実態的権利を消滅させるものではない」とも示し、訴訟以外の当事者間交渉で解決する道を残していることも、今回の本は指摘している。

 韓国大法院は12年、「植民地支配と直結した不法行為による損害賠償請求権は請求権協定の対象外」と判断。仮に協定の適用対象としても、「外交保護権の放棄に過ぎない」として事件を高裁に差し戻した。18年の大法院判決も、この判断を踏襲。本は「個人請求権は消滅していない点で、日韓の政府・裁判所の判断は一致している」として、「被害者の人権回復のため、日韓は協力すべきだ」と訴える。

 SNSなどで差別をあおるヘイトスピーチなどが横行する状況の日本で、議論の基礎となる事実を知ってもらうことすら難しいと、青木さんは考えている。だからこそ「この本が、多くの人の目を事実に向けさせる案内役になってくれれば」と期待する。

 本はA5判、2千円(税別)。問い合わせは現代人文社(03・5379・0307)。(黄澈)

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〈韓国人の元徴用工〉戦時中に朝鮮半島から日本の工場や炭鉱などに労働力として動員された人たち。動員は企業による募集や国民徴用令の適用などを通じて行われ、動員された韓国人や遺族が損害賠償を求めている。日本政府は1965年の日韓請求権協定で、賠償問題は「解決済み」との立場だが、韓国大法院(最高裁)は昨年、元徴用工らへの賠償を日本企業に命じた判決を出した。日本政府は判決に反発しているが、韓国政府は判決を尊重するように求めている。