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 2011年9月の紀伊半島大水害で8人が犠牲になった那智勝浦町市野々地区では、台風が近づくと自主防災組織(自主防)のメンバーが、高齢で体が不自由な「災害時要援護者」を車で自宅へ迎えに行き、避難所に連れてくるシステムを確立している。「あのような犠牲を、もう出してはならない」という思いからだ。

 「大きな台風が来やるで」「迎えに行くけど、避難せんか」。台風10号が近づいていた8月14日夕。避難所の市野々小学校に集まった自主防のメンバー数人が、手分けして要援護者に電話をかけていた。連絡がつくと車で飛び出し、急いで家へ。この日、小学校で夜を明かしたのはお年寄りら10人弱で、このほかにバリアフリー環境が整う福祉健康センターへも数人を送り届けた。

 区長兼自主防会長の長雄正紘さん(75)は「要援護者の方も『様子を見ようか』と避難を迷うことがあるので、自主防が呼びかける効果は大きい」と話す。長雄さんは8年前の水害で弟を亡くした。自主防のメンバーにはほかにも身内を失った人がいる。8年前のような被害を二度と起こすまいと避難を徹底している。

 市野々の自主防はそれぞれの了解を得たうえで約30人の要援護者リストを作っている。福祉健康センターを希望する人もあらかじめ注記してある。リストを手元に置き、実際に台風の度に要援護者の避難を支援しているのは、町の防災担当職員によると町内ではここだけだという。職員は9月19、20日に三重県四日市市である「自治体災害対策全国会議」で市野々の取り組みを発表する予定だ。長雄さんは「出来る限りこの取り組みを続けたい。一回やめると、それまでの積み重ねがすべて無駄になってしまう」と語る。(東孝司)