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 最近、「子どもアドボカシー」という言葉を聞くようになりました。あなたが子どもで、親から暴力を受けて保護され、施設で暮らしているとします。もし、その施設でいつもおかずが同じだったら、「献立を変えてほしい」と声をあげることはできますか。そうした子どもの声を聴き、どうすれば改善できるかを一緒に考えるのが「子どもアドボカシー」です。どんな取り組みで、なぜ必要なのか、みなさんと考えます。

 まずは子どもアドボカシーの実現を望む若者の声を聴いてみます。児童養護施設や里親など社会的養護の下で生活した経験のある当事者らの団体「インターナショナル・フォスター・ケア・アライアンス(IFCA=International Foster Care Alliance)」で5年前から活動している佐藤智洋さん(24)です。

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 私は15~19歳に東京の児童養護施設で生活しました。奨学金を得て大学に進み、今年から会社員として働いています。

 自分のことを振り返ると、まず保護された後に自分の置かれた状況とその後どういう流れになるのかを話してほしかった。里親か施設かの選択肢を示して、ちゃんと説明して子どもが選べる状況を作ってほしいです。私の場合は、どういうところに行くのかもわからず、とても怖かったことを覚えています。

 当初、私は意見を表明する権利が自分にあることも知りませんでしたし、自分の知らないところでいろんなことが決まり、「自分の人生に自分がいない」と感じていました。だから、自分の意見や希望を話せるだけでも、自分の人生なんだと思えます。100%子どもの望みをかなえるのがアドボカシーではありません。できることを一緒に考えて行動を起こすのがアドボカシーです。

 今はIFCAの活動で、里親会や施設職員の研修、厚生労働省の意見交換会などに呼ばれて当事者として話をしています。ただ、当事者の意見を聞くのは大切ですが、聞きっぱなしはやめてほしい。聞いてどうなったのかというところまでフィードバックしてほしいです。

 社会的養護の当事者こそが社会的養護の専門家です。個人的には、まずは当事者の子どもたちが意見を表明できる独立の機関を作ってほしい。私は社会的養護に命を助けられた。だからこそ、良い養護制度になってほしい。そのためには利用者の意見を聞く必要があります。

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 〈子どもの権利条約 12条【意見を表す権利】〉 子どもは、自分に関係のあることについて自由に自分の意見を表す権利をもっています。その意見は、子どもの発達に応じて、じゅうぶん考慮されなければなりません。(日本ユニセフ協会抄訳)

 子どもには意見を表明する権利があります。それは、30年前に国連で採択され、日本政府も25年前に批准した「子どもの権利条約」の12条に記されています。その意見表明権を保障するための取り組みが「子どもアドボカシー」です。

 「アドボカシー(advocacy)」を直訳すると、「弁護」「擁護」ですが、「子どもアドボカシー」は「子どもの声を聴く」という意味で使われます。

 具体的に言うと、子どもに権利があることを伝えた上で、その意見に耳を傾け、思いや不満を受け止めます。もし、子どもがその状況を変えたい、自分の意見を周囲の大人や社会に伝えたいと思う場合、どうすればいいかを一緒に考え、子どもが選択できるように情報を提供し、行動を支援するということです。

 それを実践する人を「アドボケイト(advocate)」と呼びます。アドボケイトは独立していて、自身の思いや考えを交えず、100%子どもの立場に立つことが求められます。

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 日本では、2016年の児童福祉法の改正で子どもが権利の主体として初めて位置づけられ、子どもの「意見が尊重され」ることなどが書き込まれました。厚労省の検討会が翌年にまとめた「新しい社会的養育ビジョン」では、子どもの意見表明権や参画を支える柱としてアドボカシーを明記。今年6月には、実際の仕組みを2年をめどに検討するとした児童福祉法等改正法が成立し、国の調査研究事業が始まりました。

 民間団体の動きも活発になっています。東京、名古屋、大阪、福岡などではアドボケイト養成講座が既に開かれ、子どもアドボカシーの「全国協議会」設立に向けた議論も始まっています。鳥取では、21年度に独立したアドボカシー機関を立ち上げる計画があります。児童養護施設「鳥取こども学園」副園長の藤野謙一さん(48)は「まずは県内の児童養護の子どもたちのグループを作り、アドボカシー機関についても一緒に考えていきたい」と話しています。

 当事者活動を支援する昭和女子大助教の永野咲さん(39)によると、社会的養護の経験者たちの当事者団体も全国で10団体あるそうです。IFCAは政策提言を目指し、「アワー・ボイス・アワー・ターン・ジャパン(OVOTJ)」は施設や里親家庭出身者の声を集めた冊子を作り、社会に発信しています。

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 社会的養護の経験者として厚生労働省の委員会などで委員を務める中村みどりさん(36)

 私は1歳から18歳まで大阪の施設で育ちました。高校2年の時にカナダを訪問し、同じように社会的養護を受けている子どもたちと交流しました。

 カナダでは子どもたちが自由に出入りできるセンターがあり、そこで自分の意見や生活についての不満を自由に大人に話していて、ちゃんと耳を傾ける大人がいました。驚きました。日本でも子どもが自分たちの生活について語れる場が必要だと強く思い、01年に日本で初めての当事者団体「シー・ブイ・ブイ(CVV=Children’s Views & Voices)」の立ち上げにかかわり、04年から6年代表を務めました。

 日本にもやっとアドボカシーの機運が出てきました。現段階では、3種類考えられます。第一はシステムアドボカシー。制度を変えたり、作ったりする時に経験者の意見を聞く。今も国の委員会に私が入るなどしていますが、今後は当事者を複数入れる必要があります。

 二つめは、いま施設や里親の下で暮らす子どものアドボカシー。電話などで連絡すればアドボケイトが来てくれるアドボカシー機関の設立です。最後は、一時保護や施設入所など子どもの処遇を決めるときに、アドボケイトが本人の意見を聞き、対立しやすい児童相談所や親に意見を伝えていく仕組みが必要です。

 アドボケイトはきちんと養成し、質を担保する必要があります。100%子どもの味方で、利害関係のない第三者でなければなりません。子どもの意見を聞くだけでなく、したいことを実現するにはどうすればいいかを一緒に考え行動してくれる人でなければいけません。

 アドボカシーは全ての子どもに必要です。まずは、今まさに権利が脅かされている子どもがいる社会的養護の分野から整備が急がれます。

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 英国・西イングランド大学特別講師のジェーン・ダリンプルさん

 なぜ子どもにアドボカシーが大切なのか。子どもは大人によって社会の隅に追いやられているからです。しかし、子どもは社会的な主体です。彼らが自分の人生について発言権をもつことを支え、意見を言えるようにすることが大事です。

 英国でもアドボカシーが発展したのはこの20年。97年の調査で、社会的養護下の子どもが声を上げていたにもかかわらず、受け止められずに不適切な扱いが放置されていたことが明らかになったのがきっかけです。

 04年には子どもは独立アドボケイトの支援を受ける権利があることが法律で定められ、07年には社会的養護下の子どもたちの発言権が認められるべきだとする政府の政策文書が出ました。その結果、今では各自治体に「子ども評議会」が設置され、子どもが行政の責任者に直接意見を伝えることができるようになっています。

 個人の生活でも、サービスや制度に意見を言えることが大切です。鍵はアドボケイトが独立していること。ソーシャルワーカーや里親、施設の職員も子どもの話を聞くことはできますが、たとえ良い関係だったとしても彼らにはそれぞれの立場と役割がある。だから独立して子どもの声を聴くアドボケイトが必要です。

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 カナダ・トロント在住の菊池幸工(こうこう)さん(64)

 カナダのアドボカシー事務所は公の独立機関で、調査権限もあります。社会的養護の子どもが意見や不満があるときに連絡してきます。約40年の歴史があり、若者の意見で法律や政策が変わったこともあります。

 アドボカシーは、大人と子どもが一緒になって、よりよい社会をつくる活動です。圧倒的に力を持つ大人が一方的に物事を決めるのはおかしいという考え方が根底にあります。「子どものために」という意識では、自分が子どもより上にいることになります。「子どもと一緒に」というのがアドボカシーの精神です。

 アドボカシーの基本は、本人が解決することをサポートすること。どこの窓口に行けばいいか一緒に考え、子どもが行けるようにする。それでも本人ができないときは、一緒に行くとか、子どもの指示に基づいてアドボケイトが代弁します。一緒に考え、支援しますが、子どもができることをアドボケイトが奪ってはいけません。また、誰にも話さないでと子どもが望めば、アドボケイトは秘密を守らなくてはなりません。

 こんなこともありました。白血病になり、治療を受けないと数年しか生きられないという10歳ぐらいの少女がいました。彼女は先住民で、伝統的なシャーマニズムを信じ、「西洋的な治療は受けたくない」と主張。周囲の大人は医療を受けるべきだと考えましたが、裁判所がこの少女の意見を認め、数年後には少女は亡くなりました。

 アドボカシーは一般的な「子どもの最善の利益」と相反することもあります。子どもの声は正当で、意味があるという認識を社会が共有する必要があります。アドボカシーを定着させることは、権利ベースの文化を広めることでもあります。

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 海外の動向に詳しい大分大学助教の栄留(えいどめ)里美さん(38)

 英国では、NPOが自治体から委託されてアドボカシーを実践しています。児童相談所が開く援助方針会議に子ども自身がアドボケイトと一緒に参加します。また、アドボケイトは施設を訪問して子どもの意見を聞き、子どもの意思に基づいて児相職員に伝えたり、苦情申し立てをしたりします。

 英国で会った子どもたちは、自分の希望や意見が実現すること以上に参画できたことを喜んでいました。希望が通らなくても、勝手に決められたのではないという思いを持つため、結果に納得するのです。また、援助方針会議などで自分のためにこんなに多くの人が集まり、いろいろ考えてくれているということを知って喜ぶ子どもも少なくありません。

 日本では今後、アドボカシーの独立性を確保できるかが大きな課題になります。財源もなく、名ばかりでは役割は果たせません。法律で定め、財源の確保が必要です。

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 「こんな大人がいて、こんな公の機関があるんだ」。18年前、私がカナダ・トロントにあるアドボカシー事務所を初めて訪れたときの衝撃はいまも忘れられません。子どもの声にじっくりと耳を傾け、子どもを信じ、寄り添い、子どもの力を引き出す活動に心を打たれました。

 「子どもの声を聴く」というと、すぐに「子どものわがままを許すのか」という声があがります。子どもアドボカシーは、子どもの言いなりになることではありません。また、子どもたちは話をじっくり聞いてもらうだけでも変わります。

 子どもへの虐待事件が後を絶ちません。1月に千葉県野田市で亡くなった栗原心愛さん(10)が父親の暴力について「先生、どうにかなりませんか」と声を上げていたにもかかわらず、その声は受け止められませんでした。子どもの声を聴くことは彼らの命を守り、安心で安全な生活を築くことにつながります。

 日本でアドボカシーの枠組みをどう作っていくかはこれからですが、まずはアドボカシーとは何か、その概念と精神を社会が理解し、共有することが第一歩です。(編集委員・大久保真紀

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