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【アピタル+】患者を生きる・眠る「ゲーム障害」

 オンラインゲームなどにはまり、日々の生活に支障が出る「ゲーム障害」。朝起きられない、昼夜が逆転した生活になる、といった睡眠のトラブルを伴うことが少なくありません。ゲーム障害にどのように向き合えばいいのでしょうか。日本で初めてネット依存症の専門外来を立ち上げた国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)の樋口進院長に聞きました。

――ゲーム障害というのはどのような状態ですか。

 依存症のひとつで、ゲームにのめり込み、日常生活に支障が出てしまう状態です。

 世界保健機関(WHO)は、①ゲームの時間や頻度などを自分で制御できない②人生における他の関心事や日々の活動より、ゲームを優先する③学校や職場、家庭などにおける日常生活に支障をきたしてもゲームを続ける――という状態が12カ月以上続く、と定義しています。症状が重い場合は、より短期間でも「ゲーム障害」と診断されます。

――「ゲーム障害」は病気なのですね。

 そうです。ギャンブル依存症などと同じように、専門的な治療が必要な精神疾患です。本人の意志が弱い、やる気が足りない、親の教育が悪い、といった理由でゲームをやめられないわけではなく、いくら本人がやめたいと思ってもやめられない状態です。

 2011年に久里浜医療センターにネット依存症専門の外来を開設した頃にはまだ、「ゲーム障害」は病気ではないだろうと考える人が国内外に多数いました。しかし、悩みを抱えた患者さんや家族が、私たちだけではとても診きれないほど大勢いらっしゃる、というのが現実でした。

 このまま放置しておけない、何とかしなければいけないと、私や私と同じ思いを抱く世界中の依存症専門家が声を上げ、WHOに働きかけました。

 その結果、WHOの国際疾病分類が約30年ぶりに改定された今年5月、ゲーム障害は疾患として国際的に認められ、ギャンブル依存症などと同じ精神疾患に分類されました。2022年から、改定された疾病分類が使われ始めます。

――ゲーム障害が疾患として認められることで何が変わるのでしょうか?

 ゲーム障害のご本人やご家族には、自分たちだけではどうしようもなく、どこに相談していいのかわからず、自分がいけないからこんなことになったのだろうと自身を責めるなどして、何年も苦しんでおられる方が大勢います。

 ゲーム障害が疾患として認められることで、意志の弱さといった心の持ちようや、家族に責任があって生じている状態ではなく、専門的な治療が必要な疾患なのだという認識が広まり、ご本人や家族の苦悩が軽減されると期待しています。

 また、疾患と認められて初めて、治療法の開発や各地に相談窓口を作るなどの対策も始まります。

――インターネットを使う行為への依存には、ゲーム以外もありますか?

 SNSなどへの依存もありますが、久里浜医療センターのネット依存症専門外来を受診する人の9割はゲームへの依存です。

睡眠トラブル、オンラインゲームの特性

――ゲーム障害が、昼夜逆転など睡眠のトラブルを伴うことが少なくないのはなぜですか。

 ひとつには、オンラインゲームそのものの特徴があります。参加者が増え、ゲームが盛り上がるのは、午後9時以降ということが多いのです。

 ゲームをする人たちは、自分より強い人たちと対戦して勝つことで達成感を感じます。強豪と対戦できる可能性が高いのは、大勢が参加している午後9時過ぎから夜中にかけてなので、こういった本来なら寝るべき時間帯にプレーすることになってしまいます。すると、寝る時刻がどうしても真夜中過ぎになり、朝起きられずに、学校や職場に遅刻してしまう。学校や職場に行きづらくなって不登校になったり職場を首になったりする。そうなると、日中もすることがないので、暇つぶしにますますゲームにのめり込む、といった悪循環が生じます。

 また、スマートフォンやタブレットなどの明るい画面を長時間みていると、睡眠に関するホルモンの分泌が悪くなり、朝目覚めて夜眠くなるといった睡眠サイクルが乱れてしまい、夜型になります。しかも、ゲームをしている最中には興奮しているので、夜中にゲームを終えて寝ようとしても、すぐには寝付けず、ますます朝が起きづらくなります。

 また、ゲーム障害の患者さんの中には、発達障害のひとつ、注意欠如・多動性障害(ADHD)を合併している人が少なくないのですが、ADHDの患者さんは、朝起きられない、目が覚めてもすぐには行動できない、という人がかなりいます。それも、睡眠のトラブルを抱える一因となります。

写真・図版

治療の必要性、本人が認識を

――ゲーム障害に伴う睡眠のトラブルはどのように治療すればいいのでしょうか。

 原因となっているゲーム障害の治療が基本です。一番大切なのは、本人に自分の状態をきちんと理解してもらい、治療が必要だと認識してもらうことです。

 これはゲームに限らず、ギャンブルでもアルコールでも薬物でも同じです。あらゆる依存症の患者さんは、可能な限りの言い訳を見つけ、自分のしていることを正当化しようとする傾向があります。そうした状態では、治療へと進めません。

 依存症に限らず食事などの摂生が必要な糖尿病といった生活習慣病も同じですが、患者さん自身が治療する意志がなければ治療はできません。

――患者さん本人に自分の状態を理解してもらい、治療が必要だと理解してもらうにはどうするのですか?

 患者さんの年齢や理解力、本人の希望、家族を含めた人間関係などに応じ、医師らとのカウンセリングで、患者さんが自分を客観的に見つめ直して治療への意欲を持てるように質問をしたり、話を聞いたり、相談に乗ったりします。

 また、私たちの病院では、臨床心理士のアドバイスのもとに、同じ境遇にいる患者さん同士が集まって色々な話をするグループミーティングも開いています。

入院でネット断ちする場合も

――ほかにはどういった治療があるのでしょうか。

 久里浜医療センターでは週1回、ネット依存症の患者さん対象のデイケアを実施しています。この日は、専門医らによる依存症などについての講義や当事者同士の話し合いのほか、体育館でバスケットボールなど好きな運動をして、体を動かしてもう時間も設けています。ゲーム障害の患者さんの多くは、ゲームばかりしていて体を動かさないために、若くして身体機能の低下が著しい人が少なくないですし、体を動かす楽しみを改めて認識してもらうことで、ゲーム以外のことに関心を広げてもらいたいからです。

――入院治療もあるそうですね。

 一部の医療機関では入院治療も行っています。症状の重い人や、長い間、引きこもってゲームばかりしていたために体調を崩した人、進学するのでどうしてもそれまでに治したい人などが対象です。

 久里浜医療センターの場合、原則は2カ月間の入院です。入院の際はスマホもタブレットも持ち込み禁止で、ネット断ちしてもらいます。もちろんオンラインゲームもできません。

 学校の都合などで2カ月も入院できない若い人向けには、短期間のキャンプを開いているところも複数箇所あります。

――どのような状態になったら、ゲーム障害が治ったと言えるのでしょうか。

 ゲーム依存症の定義のひとつは、日常生活に支障をきたす、という点です。ゲームが大好きで、相当の時間をゲームに費やしている人は少なくないでしょうが、そういった人たちが全員、ゲーム障害だというわけではありません。

 学業や職業に従事しなければいけないことは自分自身でよくわかっていて、このままではいけないとわかっているにもかかわらず、ゲームがやめられずに学校を留年したり、不登校になったり、出勤できなかったり、職場を首になったりしてしまう事態に陥ってしまうのが、ゲーム障害です。

 ですから逆に、ゲーム障害が治ったというのは、そういった学業や職業などにおける支障が生じなくなった状態です。ゲームをすることはあっても、日常生活で支障が生じずに、ゲームと学業や職業を両立させることができるようになれば、ゲーム障害ではなくなったと言えます。

 ただし、他の依存症と同様、ひとたびゲームの魅力にのめり込んでしまう経験をすると、その体験が消え去ることはありません。ですので、ちょっとしたきっかけで、依存の状態にすぐ逆戻りしてしまうことが少なからずあります。ゲーム障害ではない状態をずっと続けていくには、ゲーム以外に生きがいをみつける、ゲーム以外の世界で親しい人間関係を築く、といった努力も大切です。

スマホ利用、親子でルールを

――なぜゲームにのめり込んでしまうのでしょうか。

 背景には、強くなって他の人に認めてもらいたい、という欲望があります。ゲームで順位が上がり、他の人たちから褒められることで、快感を感じるのです。他の人からほめられて快感を感じるのは、ゲームに限りません。勉強でも運動でも同じです。

 なぜ、勉強や運動への依存症は無いのでしょうか。それは、勉強でも運動でも、秀でた成績を収め、他の人から認めてもらえるようになるには、大変な努力が必要だからです。ゲームは長時間プレーすればそれなりに強くなれますし、時間が無い人は、お金を払えば他人を打ち負かすことのできる武器を手に入れることもできます。勉強や運動よりずっと簡単に強くなれるために、依存症に陥ってしまう人がいるのです。

 また、依存していくきっかけは、「強烈な多幸感や、わくわく感」です。オンラインゲームは、そういった感情を高めるように、作られています。読書や運動によっても多幸感を感じることはあるでしょうが、多幸感のレベルは、ゲームよりはかなり低いと思います。

――インターネットは今の社会で欠かせません。オンラインゲームを含めたネットとは、どのようにつきあっていけばいいのでしょうか。

 依存の状態が長くなり、症状が重くなるほど、治療は難しくなります。一番は、依存になる前に、防ぐことです。

 そのためには、パソコンにせよタブレットにせよスマートフォンにせよ、子どもがインターネットに接触する最初の段階で、使う時間や場所、頻度などについて、親子できちんとルールを作り、それを守らせることが重要です。例えば、ネットを使えるのは学校の宿題が終わった後の2時間だけとか、食事中はスマホなどをいじらないとか、夜10時以降はネットにつながないといったルールです。

 こうしたルールを子どもに守らせるには、保護者が見本とならなければなりません。子どもの前で、食事中や夜遅くまでスマホをいじったり、オンラインゲームに興じたりしないよう心がけて下さい。

◇ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comメールするへお寄せください。

<アピタル:患者を生きる・眠る>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(聞き手・大岩ゆり)