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 和歌山県田辺市本宮町上切原にある臨済宗妙心寺派の華蔵寺から盗まれた本尊の釈迦如来坐像(ざぞう)が7日、捜査にあたった県警によって返還された。県教育委員会や県立博物館によると、盗難仏像は転売が重なって行方知れずになることが大半で、元の場所に戻ることは極めてまれ。住民は本尊の前で手をあわせて帰還を喜んだ。

 華蔵寺は半世紀にわたって「無住」が続いている。彼岸や葬式以外は住民が時々風通しのために窓を開けるぐらい。本尊は昨年暮れから今年3月の間のどこかで盗まれたらしい。県警が8月に別の事件で窃盗の容疑者を逮捕した際、関係先から押収していた。

 本尊は文化財指定を受けてはいないものの、2007年に県立博物館の特別展で展示され、旧本宮町史にも紹介されている。台座に応永28(1421)年の製造と記され、同館によると熊野信仰・熊野修験の隆盛期の貴重な仏像だという。

 この日、寺で営まれた復帰開眼法要には、39世帯の区の住民のうち約30人が参列。本尊が運び入れられると経を唱え、焼香をした。近くの瑞雲寺住職の九鬼聖城さん(61)は「明治の大水害や8年前の大水害と災害のたびに見守ってくれた仏様。これからも地域が平穏無事で栄えるよう、お参りして下さい」と住民に呼びかけ、檀家(だんか)総代で区長の石谷強さん(56)は「これからは防犯対策をしっかり講じたい」と誓った。

 法要には県立博物館主任学芸員の大河内智之さん(45)も立ち会った。仏像の盗難被害が相次ぐことを憂慮し、3Dプリンターによる「お身代わり」の制作といった取り組みを進めている。大河内さんは「仏像の盗難は地域の歴史を奪い取る犯行。無住の寺を狙った転売目的の犯罪は後を絶たない。今回は奇跡的に戻ったが、盗まれては元も子もないので、何とか取られないようにしなければ」と語った。(東孝司)